挑み続ける仲條正義の表現は、どれもいまに生きると示す
【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
グラフィックデザイナー、仲條正義の作品集が完成した。640ページにおよぶ一冊に、1960年代から現在までの代表作を年譜とともに年代順に収録。圧巻。そのひと言に尽きる。
編集はアートディレクターの葛西薫と服部一成が担当。仲條は付属の12ページのブックレットに文を書いたものの、作品集の制作過程は目にしていない。彼らしい江戸っ子気質か、実に潔い。散逸していた仲條の作品を探し、選び、編纂する作業が8年続いた。
資生堂宣伝部を経て仲條がデザイン事務所を立ち上げたのは61年。資生堂の企業文化誌『花椿』のアートディレクションに45年も関わった。資生堂パーラーや松屋銀座のロゴも代表作だ。大胆な色彩と造形、隠し味の効いた作品の数々。知的なユーモアに加え、温かさも見え隠れする。粋な色気も漂う。
『仲條のフジのヤマイ』や『IN&OUT、あるいは飲&嘔吐』など個展タイトルでも仲條節は炸裂している。
そうした長年の活動の中から、本書の函の表に選ばれたのは、73年の個展『スタジオ』のハートをモチーフにした作品。ブックレットには葛西と服部による編集後記が収録されているが、服部はその中で「(『スタジオ』展)以来、仲條さんがどれほど自らの表現世界を押し広げ、変革してきたか、改めて驚かされた」と綴る。また葛西は、「仲條さんはデザインの完璧や成熟をよしとせず、常に未完でありたいと言う」と記すが、その挑戦心が故のことだろう。どの作品も、いまに生きる表現であることを実感させられる。
今年88歳。現在も新作に取り組んでいるという。以前取材した際には、「手を動かし、自分で見つけられることほど面白いものはない」と語ってくれた。挑み続ける人の創造のみが醸す、他にない匂い。心の奥に響き、目にする歓びを感じられるデザインの醍醐味が、凝縮された一冊だ。
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