『ぼくと数学の旅に出よう 真理を追い求めた1万年の物語』
ミカエル・ロネー著
文系人間にこそ知ってほしい、暮らしと数学との分かち難い関係。
今泉愛子 ライター「数学なんて、なんの役に立つの?」
本書は、この疑問を解消できないまま学生時代を終えた人たちにこそ読んでもらいたい。足し算、引き算、掛け算、割り算の必要性までは誰もが納得している。消費税込みの値段や飲み会での割り勘には欠かせない知識だ。
しかし、球の体積を求めることは、生活の中でいつ必要になるだろうか。素数や数列の理解が必要になるシーンなんて、理系の専門職でもない限り、なかなか想像することができない。
30代のフランス人数学者である著者は、そんな私たちの戸惑いに答えるべく、数学は太古から人間の生活に切り離せないものだったことを紹介する。石器時代の土器に記された模様をパターンで分類し、羊飼いが羊を、農民が収穫した小麦を管理するために数の概念が芽生え、土地の面積を求めるために測量技術が発達したことがわかるのだ。数学は、社会を運営するために重要な役割を果たしてきた。
数学が円熟期を迎えるのは、古代ギリシャ時代だ。彼らは幾何学を特別に優れた教養とみなし、厳密さを追い求める幾何学を学ぶことは精神鍛錬になると考えた。プラトンは、哲学者になるために、幾何学は避けて通れない知識であると考えていたという。
ここで数学は、現代の私たちが手に負えないと感じるような、暮らしとはかけ離れた高次のものへと発展する。だが、古代の哲学者が定理の証明に奮闘するくだりを読んでいると、思考を深めるためのフレームワークに数学がいかに役立ったかがよくわかる。
さらに数学は発展を遂げる。三角関数、数列、虚数。ここまでくるとすんなり理解できるとは言い難いが、必要があって生まれてきたことはわかる。最もスッキリしたのは負の掛け算だ。マイナス×マイナスの答えがプラスになるのはなぜか。明快な説明に、思わず快哉を叫んだ。
『ぼくと数学の旅に出よう真理を追い求めた1万年の物語』
ミカエル・ロネー著 山本知子/川口明百美訳
NHK出版
¥1,944(税込)