写真家・中野正貴が撮り続ける“予測不可能都市”、東京。大規模個展でその軌跡をたどる。
2020年のオリンピックに向かって、生き物のように変貌を遂げる巨大都市・東京。その東京を約30年にわたって撮影し続ける写真家、中野正貴の初めての大規模個展が、東京都写真美術館で開催されている。
たとえば銀座や渋谷のメインストリートに、高層ビルの立ち並ぶ東京駅丸の内口。いつも大勢の人々で行き交う繁華街やオフィス街だが、中野の作品を見ると、すぐさま異変に気づく。そう、誰も人がいないのだ。1990年代、バブル崩壊を目の当たりにした中野は、世紀末を前に、新しい時代の東京を考えるきっかけにしようと、無人の街をテーマにした『TOKYO NOBODY』を撮影。同時に、水上から都市が島のように浮いて見える『TOKYO FLOAT』や、ビルや民家の窓から外の景色を眺めた『東京窓景』などによって、日々、移りゆく東京の姿を独自の視点でカメラに収めてきた。そこには知っているようで一度も見たことがない、パラレルワールドのような東京の断面が表現されている。
4mを超える巨大なプリントなど、床から天井にまで広がる約100点の作品を前にすると、東京の圧倒的なダイナミズムに打ちのめされる。だが、より注意したいのは、街に潜んだディテールだ。たとえ無人であっても、たとえば集積所からゴミがあふれていたり、事故でガードレールがぐにゃぐにゃに歪んでいたり、人の存在の痕跡が確かに感じられるからだ。特に『東京刹那』では、路地の隙間から覗き込むようにして、日常の何気ない人々のドラマを捉えている。東京の主役はビルでも道路でもなく、無数にひしめき合う人間なのだ。
中野は東京に愛着心こそ抱きながらも、現在の目まぐるしい変化について、肯定すべきか否定すべきか判断をしかねていると言い、未だ実体が掴めない「予測不可能都市」と定義している。混沌とした東京の未来は、どこへ向かうのだろうか。
『中野正貴写真展 東京』
開催期間:2019年11月23日(土・祝)~2020年1月26日(日)
開催場所:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時(木、金は20時まで。但し1月2日・3日は18時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌火曜)、年末年始(12月29日〜1月1日)
入場料:一般¥1,000(税込)
https://topmuseum.jp