日本初となる『メスキータ』展、若きエッシャーに影響を与えた悲運の画家を知っているか?
1868年、アムステルダムでユダヤ人の家庭に生まれたサミュエル・イェスルン・デ・メスキータ。美術学校の教師として若きエッシャーに影響を与え、オランダのグラフィック・アート協会の会長を務めるなど、版画やデザインの分野で活躍しました。しかし、必ずしもよく知られた存在とは言えません。
東京ステーションギャラリーで開催中の『メスキータ』展は、40年にわたってメスキータの作品を蒐集したドイツ人夫妻の個人コレクションで構成。作品数も240点と膨大で、ひとりの画家の人生に触れられる貴重な機会となっています。
メスキータが版画を始めたのは20代後半。動物や植物、身近な人物を、強いコントラストを伴うモノクロームで表現しました。一見、平面的に単純化されているようですが、細かな線も多く加えられ、同時代のアール・デコを思わせる装飾性も見て取れます。また、ステートごとにモチーフを変化させるなど、実験的な技法を用いているのも特徴です。何度も鋭く刻み込む線からは、職人が自らの技を高めていくような、表現への貪欲な探究心が感じられます。
40代にして初めて個展を開き、65歳で国立視覚芸術アカデミーの教授となったメスキータでしたが、戦争によって人生を大きく狂わされてしまいました。1940年、ナチス・ドイツがオランダを占領すると、当時、14万人居たユダヤ人を弾圧。メスキータも自由な活動ができなくなります。そして1944年に強制収容所へ連行されると、妻とともにアウシュヴィッツで無残にも殺害されてしまうのです。75歳のことでした。
アトリエに残された作品は、エッシャーら教え子や友人が命がけで持ち帰り、秘密裏に保管します。そして戦後、アムステルダム市立美術館で展覧会を開催し、再評価と復権に尽力しました。
生命こそ奪われたものの、彼の芸術は失われることなく、こうして東京にやってきました。エッシャーをして「常に我が道を行き、他の追従を許さず、独創的である」と言わしめたメスキータの世界を、日本初の回顧展で目の当たりにしてください。
『メスキータ』
開催期間:2019年6月29日(土)〜8月18日(日)
開催場所:東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1
TEL:03-3212-2485
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)
入場料:一般¥1,100(税込)
www.ejrcf.or.jp/gallery