「語らない室内」に吸い込まれる、『ハマスホイとデンマーク絵画』展。

「語らない室内」に吸い込まれる、『ハマスホイとデンマーク絵画』展。

文:はろるど

ヴィルヘルム・ハマスホイ『ピアノを弾く妻イーダのいる室内』1910年 国立西洋美術館蔵 ※東京展のみ出品 手前と奥のふたつの部屋、それをつなぐ両開きの扉、そして妻イーダの後ろ姿と、ハマスホイの室内画における特徴的なモチーフで構成されている。イーダはピアノが得意だった。

19世紀末から20世紀前半のデンマークで活動し、コペンハーゲンの旧市街にある自宅アパートの室内を繰り返し描いた画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864〜1916)。没後は世界大戦などを経てその存在が忘れられていくものの、1980年代に再び注目を集め、1990年以降は欧米の名だたる美術館で展覧会が開かれるなど人気の画家のひとりだ。

東京都美術館で開催中の『ハマスホイとデンマーク絵画』では、そのハマスホイの作品約40点を中心に、同時代の画家の作品約50点を展示。デンマークの美しい自然やささやかな日常を舞台とした室内画など、19世紀デンマーク絵画の優品が並ぶ。

「北欧のフェルメール」と称され、「孤高の画家」とも捉えられがちなハマスホイ。世紀末のコペンハーゲンでは、妻や子どもたちをモデルに親密な家庭生活を表した絵画が流行した。やがてモチーフが物語から切り離されると、穏やかな光と調和した色彩による、アンティークな調度品に囲まれた室内を主役とする室内画を描く画家が現れる。ハマスホイもそのひとりだ。それらの絵画は、時間の積もったノスタルジックな雰囲気に満ちていて、人物も多くの表情を見せない。同じ静謐な室内を舞台にしながら、さまざまな物語が思い浮かぶフェルメールの風俗画とは違った印象を受ける。

ハマスホイは「私はかねてより古い部屋には、そこに誰がいなかったとしても、独特の美しさがあると思っている」との言葉を残している。人のいない空っぽの部屋は「不在」を強く意識させ、しばらくすると扉の中に吸い込まれ、白昼夢を見ているような錯覚に囚われるほどだ。2008年に国立西洋美術館で開催された日本初の回顧展では「ハンマースホイ」として紹介され、国内で無名だったのにも関わらず口コミで評判を呼び、静かなムーブメントを起こしたハマスホイ。それから10年余り経ち、日本で初めて本格的に紹介されるデンマーク絵画とともに、「語らない室内」が再び多くの人々の心を引きつけることは間違いない。

ヴィルヘルム・ハマスホイ『背を向けた若い女性のいる室内』 1903-04年 ラナス美術館蔵 ハマスホイの代表作のひとつ。パンチボウルの置かれたピアノの前に立ち、左手で銀色のトレイを抱えるように持つ女性の後ろ姿を描く。会場ではモチーフとなったパンチボウルの実物も展示され、絵画と見比べることができる。© Photo: Randers Kunstmuseum

ピーダ・イルステズ 『ピアノに向かう少女』 1897年 アロス・オーフース美術館蔵  丸い椅子に腰掛けてピアノに向かう水色のワンピースの少女。ハマスホイの室内画と同じ後ろ姿だが、窓の外に垣間見える緑など明るい色彩のためか、開放的な雰囲気が感じられる。ARoS Aarhus Kunstmuseum / © Photo: Ole Hein Pedersen

ヴィゴ・ヨハンスン『きよしこの夜』1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 ヨハンスン夫妻と6人の子どもたちが、蝋燭の灯りで華やぐクリスマスツリーを囲んでいる。歌い踊りながらツリーの周りを回るのは、デンマークのクリスマスの伝統的な風習だ。© The Hirschsprung Collection

会場風景。正面に展示されているのが、ミケール・アンガの『ボートを漕ぎ出す猟師たち』。海難救助に向かうスケーインの漁師の光景をまるで英雄のように描いている。19世紀後半のデンマークの画家たちはユラン(ユトランド)半島最北端の漁師町スケーインにたどり着き、印象派風の光の表現を取り入れた風景画を多く描いた。Ⓒ読売新聞社

『ハマスホイとデンマーク絵画』

開催期間:2020年1月21日(火)~3月26日(木)
開催場所:東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開室時間:9時30分~17時30分(金、3月18日は20時まで)※入室は閉室30分前まで
休室日:月、2月25日(2月24日、3月23日は開館)
入場料:一般¥1,600(税込)
www.tobikan.jp
https://artexhibition.jp/denmark2020/

※2020年4月7日(火)~6月7日(日)山口県立美術館に巡回

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