三菱一号館美術館の『テート美術館所蔵 コンスタブル展』で知る、ターナーとコンスタブルのライバル関係。
J.M.W.ターナーと並びイギリスを代表する画家であるジョン・コンスタブル。ともにナポレオン戦争の時代を生きた2人はライバル関係にありながら、風景画を描き続け、その地位を高めたとして高く評価されている。だが日本においてはコンスタブルの作品が展示される機会が多くなかったため、ターナーほどの知名度はないかもしれない。
しかし三菱一号館美術館で開催中の『テート美術館所蔵 コンスタブル展』を鑑賞すれば、多くの人々の心にコンスタブルの名が深く刻まれることだろう。会場ではコンスタブルの重要な作品を多く所蔵しているロンドンのテート美術館のコレクションを中心に、同時代の画家を含めた計85点の油彩画や水彩画などを展示している。国内では実に35年ぶりの大規模な回顧展だ。巡回はない。
1823年のロイヤル・アカデミーを再現した展示が見過ごせない。コンスタブルは同展にあわせて、ワーテルローの戦いから2年後に開通した橋をテーマとした『ウォータールー橋の開通式(ホワイトホールの階段、1817年6月18日)』(1832年発表、テート美術館蔵)を制作。のちのジョージ4世が臨席した華やかな式典の様子を歴史画のように表現した。一方、その隣に並べられたのが、17世紀の帆船の軍艦が出航する光景を描いたターナーの『ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号』(1832年、東京富士美術館蔵)だ。しかし他の画家に対して競争意識の強かったターナーは、自作より大きく、暖色を用いたコンスタブルの作品の方が目立つことを懸念し、最後の手直しとして赤いブイを手前に描き加えて技巧を誇示する。それを見たコンスタブルは「ターナーがここにやって来て、銃を撃ち放っていった」と言ったという。コンスタブルはターナーに対し深い敬意を払っていたとされるが、緊張していた両者の間柄を伝えるエピソードとして面白い。
コンスタブルの風景画を前にして思うのは、類い稀な没入感が得られることだ。海岸線を眺めれば波音が聞こえ、木立を目にすれば樹木を抜ける風を感じ、広い空を見上げれば雲の合間から差し込む光を全身で受け止めているような気持ちになる。コロナ禍が続く中、海外へ出かけることは依然としてままならないが、作品を鑑賞しているといつしか時を超えてコンスタブルの描いた自然の中へ旅している錯覚にさえ陥るのだ。画家が真摯に向き合い、ありのままを写しながら、次第に叙情性を帯びていくイギリスの原風景を、いまこそ三菱一号館美術館にて胸に焼き付けたい。
『テート美術館所蔵 コンスタブル展』
開催期間:2021年2月20日(土)~5月30日(日)
開催場所:三菱一号館美術館
東京都千代田区丸の内2-6-2
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館30分前まで、祝日を除く金曜、第2水曜日は20時まで
休館日:月 ※祝日・振替休日の場合、会期最終週は開館。4/25〜緊急事態宣言のため休館、詳細はWebにて確認を。
入場料:一般¥1,900(税込) ※予約優先オンラインチケットあり
https://mimt.jp/constable/