近代絵画から塩田千春まで。「眠り」から広がるアートの世界を、夢を見るよ...

近代絵画から塩田千春まで。「眠り」から広がるアートの世界を、夢を見るように体験する。

文:はろるど

塩田千春『落ちる砂』2004年 DVD サイズ可変 国立国際美術館蔵。天井から光が差し込む室内で女性がベットに横たわる場面と、女性が姿を消してベットの砂袋から砂が落ちる光景が交互に映されている。突如、ベットから消えるシーンは死を連想させ、生きることのはかなさを感じる。

人間が生きていく上で欠かせない「眠り」。日々の仕事や暮らしに追われる私たちは、どうしても睡眠時間の確保や質を高めることばかりに関心を寄せてしまう。だが、実は眠りは人々の想像力を高め、多くの美術作品として表現されているのだ。

東京国立近代美術館で開催中の『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』では、そうしたアートと眠りの関係にスポットを当てている。会場には美術として表現された眠りをひも解くべく、ゴヤやクールベから塩田千春や河口龍夫まで、約120点の作品を展示している。すべて日本の国立美術館が所蔵するコレクションで構成されていて、古典と現代を問わず、絵画や写真、映像など幅広いジャンルの作品が見られるのが特徴だ。

眠りとは、永眠の言葉が示すように「死」にも喩えられる。たとえば内藤礼や塩田千春は、ベットや枕などをモチーフに、生の脆さやはかなさを思わせる作品を制作。生きるために必要な眠りが、死と隣り合わせにあることを教えてくれる。一方で眠りの後に訪れる「目覚め」に着目したのは、河村龍夫やダヤニータ・シンだ。

眠りは、夢と現実、生と死、意識と無意識を合間を行き来している。眠りという事象を端的に描いたクールベの『眠れる裸婦』といった絵画だけでなく、人々の不安や迷いを掘り下げたジャオ・チアエン『レム睡眠』など、現代美術にも興味深い作品が多い。平穏な眠りから思いがけないほど刺激的な表現が生み出されることに驚く。

トラフ建築設計事務所による会場デザインと平野篤史(AFFORDANCE)のグラフィックデザインも見どころだ。展示室にはカーテンをイメージした布が吊るされ、大きなベッドのような椅子が置かれていて、寝室を思わせる空間が広がっている。目を閉じて眠ると現実では体験できないような世界へ旅ができるのと同じように、眠りを通して表現されたアートは著しいほどイマジネーションに富んでいる。夢を見るように、感性を解いて作品と向き合ってほしい。

左からギュスターヴ・クールベ『眠れる裸婦』(1858年、国立西洋美術館蔵)、藤田嗣治(レオナール・フジタ)『横たわる裸婦(夢)』(1925年、国立国際美術館蔵)。クールベの作品では、目を閉じて眠る女性が鑑賞者の視線に一方的にさらされている。ティツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス』(非出品)などに連なる「閨房画」に位置付けられる作品だ。photo: Harold

河口龍夫『関係ー種子、土、水、空気』(部分)1986〜89年 東京国立近代美術館蔵。30種類の植物の種子を鉛の板に封じ、それを発芽させて成長させるための土や水を金属の管に閉じ込めた作品。チェルノブイリ原発事故に触発されて制作された。放射能汚染から種子を守り、いつか発芽、つまり目覚めさせるようにするための装置として生み出された。photo: Harold

ジャオ・チアエン『レム睡眠』2011年 国立国際美術館。18名の男女がおもむろに目を開けながら自らが夢で見たことを話している。その多くは台湾で働く外国人の若い介護職の女性たちで、もう戻れないかもしれない故郷の夢の様子などを切々と振り返っている。photo: Harold

平野篤史(AFFORDANCE)による『眠り展』のメインビジュアル。夢かうつつかの眠りへと誘うようなデザインが面白い。会場デザインのコンセプトは「起きながら見る眠りの世界」だ。

『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』

開催期間:2020年11月25日(水)~2021年2月23日(火・祝)
開催場所:東京国立近代美術館1階 企画展ギャラリー
東京都千代田区北の丸公園3-1
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~17時 ※入館は閉館30分前まで。1/15(金)以降の夜間開館は当面中止
休館日:月(1/11は開館)、1/12(火)
入場料:一般¥1,200(税込)
※オンラインでの日時指定予約制を導入。マスク着用や入館前の検温、手指消毒液を設置するなど、新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施。
https://www.momat.go.jp

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