ねっとりとした不穏な描写から目が離せない、『束芋「透明な歪み」』展。

ねっとりとした不穏な描写から目が離せない、『束芋「透明な歪み」』展。

文:はろるど

古い邸宅を思わせる展示空間。ラグの上にも新作の油彩が置かれています。 photo: Kazuto Kakurai

現代美術作家、束芋(たばいも)の新作展『透明な歪み』がポーラ ミュージアム アネックスで開催中です。2011年の第54回ベネツィア・ビエンナーレで日本館代表を務め、国際的な評価を獲得。以後、自身の作品制作に加えて新聞の連載小説の挿絵や、舞台とのコラボレーションなど領域を広げてきました。今回の個展ではアニメーションの他、初めて油彩も発表。孤独や、身体・性の問題を捉えた計10点の作品は、おどろおどろしく不条理で、ねっとりとした手触り感があります。

タイトルの「透明な歪み」とは、なにを意味するのでしょう。束芋は近年、原作からインスピレーションを受けて描く挿絵や、オリジナル作品を自身の解釈で再制作するような制作活動に取り組んできました。こうして制作された自身の作品には、原作に対する誤解や自身の独断的な解釈から生まれる「歪み」があるとし、その「歪み」が原作と自身の作品をつなぐ道だと言います。今回展示している作品にはすべて原作が存在しますが、一切明らかにせずに原作との関係を断つという試みを行い、「歪み」をできるだけ透明にして、道を遡れないようにしました。しかし、「歪み」はそこに存在しなくなるのではなく、確実にそこにあるのです。それを束芋は「透明な歪み」と名付けました。

束芋は、原作と自作の関係を一度解き放つことで、新たな可能性が見えるだろうと述べています。オリジナルとの接点は、鑑賞者の想像にゆだねられ、より自由な気持ちで楽しめます。

無限回廊のように続く映像作品『ループドロップ』の結末は衝撃的です。不安や戸惑い、人の存在の脆さなどを感じ、不思議と引き込まれ、「もう現実に戻ってこれないかもしれない」と、まるで悪夢を見ているかのような錯覚に陥ります。なお、1階のショーウィンドウでも、束芋が手がけたポーラの化粧品のディスプレイを披露。こちらもお見逃しなく!

『振り向きざまの』2018年 束芋が今回初めて発表した油彩の一枚。うねるような筆触で人が振り向く姿を描いていますが、表情ははっきりとうかがえず、透明の皮膜が覆っているように見えます。

右奥:『ふたり』2016年 開閉する2棹の箪笥を中心とする映像インスタレーション。タオルやクッションを掻き乱すように伸びてくる手足の断片や、突然現れる脳など、身体が重要なモチーフです。 photo: Kazuto Kakurai

『ループドロップ』2019年 白いタイルに囲まれた通路の中で物語は進みます。窪んだ壁に映像を投影しつつ、一部にディスプレイを組み合わせた展示方法もユニーク。photo: Kazuto Kakurai

『束芋「透明な歪み」』

開催期間:2019年4月26日(金)〜6月2日(日)
開催場所:POLA MUSEUM ANNEX
東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:11時~20時 ※入館は閉館30分前まで
会期中無休
入場料:無料
http://www.po-holdings.co.jp/m-annex

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