森美術館の『未来と芸術展』でAIや温暖化、生命倫理を改めて考える。
AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)など、日々進化する最先端テクノロジーは人々の暮らしを豊かにするとともに、当たり前とされてきた人間像や社会観を大きく変えてきた。森美術館の『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』では、現代アートから、建築、デザイン、プロダクト・イノベーション分野まで約100点の作品を展示し、変わりゆくライフスタイルや社会のあり方について考察している。
テーマのひとつが、自然との共生を目指し、再生エネルギーを利用した未来型の都市だ。コペンハーゲンを拠点とするビャルケ・インゲルス・グループは、海上で1万人が生活できる持続可能な都市計画を考案。2200年の東京を「里山」として構築するプロジェクトや、アメリカのNASAで進む火星移住計画の住居コンペ案も紹介され、地球規模の人口増大や環境問題に対処するさまざまなアイデアを提示する。
ロボットは、さらに身近になるだろう。子どもたちとロボットがバスケットボールに興じる仮想風景を写したヴァンサン・フルニエの作品は、ロボットが人間のパートナーとしての役割を果たす時代も遠くはないことを示している。未来は明るく、快適になると期待させられるのだ。
一方で、人間の能力を高め、病気を克服するために研究が進んでいるバイオテクノロジーの分野では、遺伝子操作など生命倫理の問題を多くはらんでいる。オランウータンと人間のハイブリットの母子を表したパトリシア・ピッチニーニ『親族』を前にすると、紛れもない母子愛の表現に心惹かれながら「人工的に生命をつくることは正しいのか」と疑問を覚える。先述したロボットが自らの意志をもち、人間にとって代わる地位を得ることも想像に難くない。
ラストにそびえ立つアウチの『データモノリス』のスピーディに変化する映像を前にしていると、AIの底知れない可能性を感じるとともに、まるで宇宙の果てへと旅しているかのような気分になる。まだ見ぬ未来の世界を夢見つつ、現実の多くの課題に目を向けた時、展覧会タイトルの「人は明日、どう生きるのか」という問いが初めて肌身に迫って感じられるのだ。
『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』
開催期間:2019年11月19日(火)〜2020年3月29日(日)
開催場所:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~22時 ※火曜日のみ17時まで。但し12/31、2/11は22時まで。)※入館は閉館30分前まで
休館日:会期中無休
入場料:一般¥1,800(税込)
www.mori.art.museum