農業を初めてアートにした、「ジャン=フランソワ・ミレー」の展覧会がなかなか刺激的です。
男の顔は影になってよくわかりません。無駄のない筋肉のついた身体で、種をつかんだ手をのばした“農夫”がそこにいます。『羊飼いの娘』は羊毛を紡ぎながら、ただ羊を待つ少女が浮かび上がるようにカンヴァスにいます。会場に並ぶほかの作品、たとえば驚きの表情や、カラヴァッジオのような明暗でドラマティックな演出がされた作品と比べると、ミレーの、特に後半以降の絵画は、淡々と農民を映し出していることに気が付きます。
ミレーは美術史上、初めて農業をモチーフとし、神でも王侯貴族でもない無名の農民を堂々と描いた点で革新的だったと評価されていますが、突き詰めれば、ミレーが描いたものは農業という労働の本質ではないでしょうか。ミレーの描く人物は、派手なポーズをとりません。にもかかわらず、耕し、食べものをつくる労働そのものを描いたミレーの絵には、人の営みの根源的な強さがあります。優れた技巧や構図の解説は展覧会図録でご覧いただくとして、まずここではミレーの絵が、オフィスワークで凝り固まった頭と身体に、なかなか心地よい刺激だということをお伝えしたいです。(Pen編集部)
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掲載した作品はすべて、ボストン美術館蔵 Photographs ©2014 Museum of Fine Arts, Boston
『ボストン美術館 ミレー展
――傑作の数々と画家の真実』
2014年10月17日~2015年1月12日
三菱一号館美術館
東京都千代田区丸の内2-6-2
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで。ただし2015/1/2は18時まで、いずれも入場は閉館30分前まで)
休館日:月(2015/1/5と1/12は18時まで開館)、2014/12/29~31、2015/1/1
入場料:一般¥1,600
http://mimt.jp/millet