初の自画像を中心とした個展、「蜷川実花:Self-image」が開催中。
蜷川さんの作品といえば、なんといってもその色彩の鮮やかさ。それは「蜷川カラー」と呼ばれ、モデル、花々、アイドル、風景などの輝きを捉えた極彩色の作風は、見るものを極上の幸福感とともに儚くどこか切ない気持ちにさせます。しかし、今回のセルフポートレートは、少々事情が変わってきます。
蜷川さんの写真がセルフポートレートからスタートしたというのは、実はあまり知られていません。2013年に発表された写真集『Self-image』は、僅か1500部しか刷られておらず、それを目にした人はかなり少数だったはず。そして、自分を取り囲む周りの環境が変化する中、その後も彼女は断続的にセルフポートレートを撮り続けており、今回の作品はそのほとんどが初公開の作品となります。
そのセルフポートレートは、いままで見慣れてきたいわゆる“セルフポートレート”という写真とは異なります。ひと言で表現すると、まるで彼女を全く知らない他人が撮影したようなポートレート。それは、冷静な空気と淡々と流れる時間を感じさせる不思議な美しさに満ちた写真であるとともに、見ている者をなんとなく心もとなく落ち着かない気分にさせます。
自分を他人のように客観視した一枚一枚の写真。それはどのように撮影されたのでしょうか。
「ポートレートはセルフタイマーで撮るんです。だいたいロケ先でひとりで撮る事が多いですね。セルフタイマーで撮るから写る瞬間が全く見えないんです」。
写真家がセルフポートレートを撮る場合は、セッティングをしてからアシスタントがシャッターを押すことが多いはず。
「もちろんひとりなので、アシスタントもいない。鏡を見ながら撮る訳でもないのでそこに私の意思は全く反映されません。例えばそこに人がひとり入ることでそれが好きな人でも、そうでない人でも表情が出てきます。しかし、ひとりでセルフタイマーですから、とても自分が遠い存在でフラットな撮り方になります。その瞬間に自分がどう写っているかも全くわからないし、コントロールも効きません」
さらに、そのセレクトもポイントだとか。
「必要以上に(笑)かわいく撮れてるものもあるんですが。でも、そういうものは自然に自分のセレクトから外れていきますね。子供が小さいので、実はなかなかひとりでいられる時間がないんです。だからロケ先で部屋で、ひとりでいるというのは、実は非常に貴重な時間。そういう時間を制作に当てるのは楽しいことです」
“原美術館”という場所も実に作品の雰囲気にマッチしていると言えます。
「今回は写真集『Self-image』を見てくださった原美術館側からお声がけ頂いて、あっという間に決まりました。『いつか原美術館で個展ができたらいいね』なんて話していたので、それが実現できて本当に嬉しいです」
展覧会では、三面に大きく投影された、新作映像のインスタレーションも登場。渋谷慶一郎さんが手がける、映像に合わせた音楽にも注目。音楽は無限に変化を繰り返して二度と同じ瞬間は訪れないという、これもまた不思議な作品。元邸宅という原美術館の独自のゆったりとした空間で、蜷川実花さんの映し出す新たな美の森を彷徨ってみては? (大嶋慧子)
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All photos (c)mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
「蜷川実花:Self-image」
~5月10日(日)
原美術館
東京都品川区北品川4-7-25
TEL:03-3445-0651
開館時間:11時~17時(火、木~日)
11時~20時(水)※入館は閉館時刻の30分前まで
休:月、5月7日(木)
※2015年5月4日(月)は、開館。
入館料:一般¥1,100、大高生¥700、小中生¥500
※原美術館メンバーは無料。
※学期中の土曜日は、小中高生の入館無料。
www.haramuseum.or.jp