誰も見たことのない作品が蘇る、ダ・ヴィンチ没後500年 『夢の実現』展。

誰も見たことのない作品が蘇る、ダ・ヴィンチ没後500年 『夢の実現』展。

文:はろるど

黄色がかったニスやひび割れをバーチャル上で取り除き、新たに復元した『モナ・リザ』。現在の状態の作品よりも背景が青みを帯び、光に満ちていたことがわかる。

2019年で没後500年を迎えたルネサンスの巨人、レオナルド・ダ・ヴィンチ。『モナ・リザ』などの世界的名画で人気を博しながら、後世に残した作品は意外なほど少なく、現存する絵画は16点しか確認されていない。しかも多くは未完成で、完成した作品はわずか4点とも言われている。

「レオナルドの絵画を完成させたら?」そうした夢のような願いを叶えたのが、代官山ヒルサイドフォーラムで開催中の「ダ・ヴィンチ没後500年 『夢の実現』展」だ。レオナルド研究の第一人者である池上英洋(東京造形大学教授)が監修を務め、同大の教員7名と学生や卒業生ら約100名が協働。絵画16点だけでなく、彫刻、建築、光学系発明品の未完作品約30点を、学術的見地に基づいてバーチャルな形で復元させた。

たとえば『聖ヒエロニムス』と『東方三博士(マギ)の礼拝』。ともに下絵の状態で残されていたため現存する作品には色がないが、同時代の様式や構図の似たリッピの絵画などを参考に着色している。『モナ・リザ』もひび割れを修復しただけでなく、赤外線カメラで判明した下絵の爪を描き込んでいる。さらに下から3分の1が切断された『ジネヴラ・デ・ベンチ』では肖像の表面だけでなく、月桂樹などをモチーフとした裏面も世界で初めて復元。いずれも実際と異なる姿に、大いに驚かされる。

史上最大の騎馬像計画とされた『スフォルツァ騎馬像』では、レオナルドが野心的に構想した両脚をあげるポーズの復元に成功。実現しなかった建築も模型や映像で再現し、誰も知らなかったレオナルドの創造世界を目の当たりにできる。『最後の晩餐』の部屋に入り込むかのようなVRルームや、ARを利用したタブレット型の鑑賞ガイドなど、最新の技術を駆使した試みも見どころだ。

レオナルドは、一朝一夕に名作を描き、発明をしたわけでなく、何事も謙虚に学び、綿密な研究と実証を繰り返した上で、作品を生み出す芸術家だった。今回の復元プロジェクトも、約1年にわたって学生らがレオナルドの作品を学び、グループワークを何度も重ね、真摯に作業に取り組んだ結果だ。これほど発見の多いレオナルド展は、他にないと思えるほどだ。

色彩を施した『聖ヒエロニムス』。精緻な下絵が残されているものの、現存する作品には色がない。そこで同時代のフィレンツェの画家の作品を参照し、聖人の赤いローブなど、定番とされた色彩を参考に復元。右奥の教会は修復で判明したもので、フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会をモデルにしている。photo:Harold

映像で復元された『最後の晩餐』。レオナルド唯一の現存壁画で最大の作品だが、制作直後から顔料が剥離し、当時の裏の厨房からの湿気によるカビに覆われるなど、現在も多くの部分が剥落した状況に置かれている。よって復元では剥離部分を周囲の色で埋め、完全に消失した部分を弟子の模写を参考するなどして補った。また右下に見えるのは復元された『スフォルツァ騎馬像』。レオナルドは三脚が接地する伝統的なスタイルではなく、より困難な両前脚をあげるポーズを構想していた。photo:Harold

会場では主にフィレンツェからミラノの宮廷時代へと復元の絵画が並べられていて、レオナルドの制作を時間を追って辿ることができる。完全に復元された状態の全16点の作品を一度に展示するのは、世界で初めて。

ダ・ヴィンチ没後500年 『夢の実現』展

開催期間:2020年1月5日(日)~2020年1月26日(日)
開催場所:代官山ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8 代官山ヒルサイドテラスF棟内
TEL:042-637-8111(東京造形大学)
開館時間:11時~20時30分 ※入館は閉館30分前まで
会期中無休
入場無料
http://leonardo500.jp

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