いまも古びることない雪岱の美意識。『小村雪岱スタイル-江戸の粋から東京モダンへ』の見どころは?
2020年に没後80年を迎えた小村雪岱(こむらせったい 1887〜1940年)。東京美術学校で日本画を学び、27歳の若さにて泉鏡花(いずみきょうか)の単行本の装幀家としてデビュー。資生堂意匠部にて広告デザインを担うと、新聞の小説挿絵や舞台美術も手がけ、「意匠の天才」と称されるほど幅広く活躍した。
三井記念美術館で開催中の『小村雪岱スタイル-江戸の粋から東京モダンへ』では、希少な肉筆画や木版画、それに泉鏡花の装幀本や挿絵の原画などが120点以上も公開されている。その大半は明治工芸の優品を数多く所蔵する京都市にある清水三年坂美術館のコレクションだ。これほど多くの雪岱画を東京で見られる機会は久しぶりと言って良い。まるでミニチュアの書き割りを目にしているような『青柳』や、『遊戯菩薩』(吉川英治作)の人物を描く繊細で優美な線に惚れ惚れしてしまう。一見、クールな表現に見えるのに、例えば男女の密やかな会話が聞こえるような情緒深い光景が立ち上がるのも大きな魅力だ。
ところで「スタイル」とは何を意味するのだろうか? 実は展覧会ではルーツとされる鈴木春信の浮世絵や、雪岱の美意識に呼応する並河靖之(なみかわやすゆき)らの明治工芸、さらに後世へ影響を与えた現代美術家らの制作も紹介しているのだ。茶室「如庵」の再現スペースに注目したい。そこには雪岱の描いた『写生 ヤマユリ』の隣に、ユリの摘み取られた姿を木彫りした松本涼の『枯山百合』がそっと添えられている。まるで絵の中からヤマユリが飛び出してきたような設えだ。また臼井良平は雪岱の『青柳』の見立てとして、『目薬と手鏡』をガラスで制作。人物は不在ながらも、畳の上に誰が使っていたような気配を漂わせる「留守模様」として表現している。いずれも雪岱へのオマージュとして作られていて、「まさか現代アートとのコラボが見られるとは……」と目を丸くしてしまう。
近年、雪岱の業績を再評価する機運が高まり、関東でも『小村雪岱とその時代』(埼玉県立近代美術館、2010年)や『小村雪岱ー「雪岱調」のできるまで』(川越市立美術館、2018年)、それに『複製芸術家 小村雪岱』(日比谷図書文化館、2021年)などの展覧会が開かれてきた。今回はさらに踏み込み、同時代の工芸から現代アートを引用することで、雪岱の美意識の広がりを探ろうとしている。かつてないほど意欲的で愉しい雪岱展にて、いまも古びることないモダンなデザインを味わい尽くしたい。
『特別展 小村雪岱スタイル-江戸の粋から東京モダンへ』
開催期間:2021年2月6日(土)~4月18日(日)
開催場所:三井記念美術館
東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:11時~16時 ※入館は閉館30分前まで。短縮開館
休館日:月
入場料:一般¥1,300(税込) ※オンラインでの日時指定予約制。
www.mitsui-museum.jp