歴代王侯の肖像画がずらり。『KING&QUEEN展』で、イギリス王室のドラマを読み解く。
1856年に創立し、世界屈指の肖像専門美術館であるロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー。そこにはイングランドで肖像画の制作が始まった16世紀以来、過去500年で制作されたイギリス王室の肖像画が数多く所蔵されている。
上野の森美術館で開催中の『ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展―名画で読み解く 英国王室物語―』では、そのコレクションでイギリス王室の歴史をたどることができる。ここではヘンリー8世やエリザベス1世に遡るテューダー朝から、大英帝国を築いて世界の多くを支配したヴィクトリア女王の時代、さらに現在のウィンザー朝など、5つの王朝の肖像画や肖像写真を約90点展示。ほぼすべてが日本初公開であるというから、これほど貴重な機会もない。
肖像画には単なる人物の姿だけでなく、生き様や歴史といった「属性」が描きこまれている。たとえば『エリザベス1世(アルマダの肖像画)』(1588年頃)を見てみよう。女王の背景の左ではイングランドの船が出港し、右には暗い岸辺に沈められたスペイン艦隊が描かれており、アルマダ海戦でスペインを破ったことを記念して制作されたことがわかる。また、実際には太っていながらも、凛々しく引き締まった横顔へ美化された『ジョージ4世』(トーマス・ローレンス作、1814年頃)も面白い。会場では巨漢の姿を揶揄する風刺版画と並んで展示されていて、当時のイギリス国民の王室に対するスタンスもうかがえる。それぞれの肖像画からあふれ出るような物語や歴史背景は尽きることがない。
ラストを飾るロイヤルファミリーを写した肖像も重要だ。チャールズ皇太子や故ダイアナ妃、ハリー王子とメーガン妃……。メディアで私生活をスキャンダラスにも伝えられる現イギリス王室の顔ぶれは、威厳に満ちた肖像画よりもはるかに親しみをもって感じられるだろう。またポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルが描いた『エリザベス2世』(1985年)にも目を奪われる。ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリーは、今日も国内外の現代美術家に肖像画の制作依頼を続けているのだ。
コロナ禍のいま、ロンドンのスタッフは来日を果たせず作品のみが送られ、時差に苦慮しつつ日本側とリモートでやり取りしながら展示が実現したという。いくつもの困難を乗り越えてイギリスの歴代王族の肖像画が初めて揃った展覧会を、ぜひとも見逃さないようにしたい。
『ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展-名画で読み解く 英国王室物語-』
開催期間:2020年10月10日(土)~2021年1月11日(月・祝)
開催場所:上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~17時(1月1日を除く金曜は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで
会期中無休
入場料:一般¥1,800(税込)
※事前日時指定制。午前10時より会場チケットボックスにて当日券の販売あり。販売状況は公式HPやSNSを要確認。
※マスク着用や入館前の検温、手指消毒液を設置するなど、新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施。
www.kingandqueen.jp