もう行きましたか? 没後半世紀の大回顧展「ジャコメッティ展」。挑み続けた表現への情熱が満ちる空間は必見です!
究極まで削ぎ落とされ、引き伸ばされた人体像。荒削りなそのフォルムは、しかし確かに人体であり、折れそうに細いのに強固な存在感を持って、周囲の空気を、空間を緊張と静寂で満たします。
作者はアルベルト・ジャコメッティ。1901年にスイスに生まれ、フランスで活躍した20世紀を代表する彫刻家のひとりです。彼の11年ぶりの大回顧展が、六本木・国立新美術館で開催されています。
パリ、チューリヒのジャコメッティ財団と並び、世界3大ジャコメッティ・コレクションで名高いマーグ財団美術館の所蔵作を主体に、国内作品を加えた彫刻、油彩、素描、版画など132点は、初期から晩年まで、各時代の代表作揃い。質量ともに見ごたえたっぷりです。
画家を父に持つジャコメッティは幼いころから制作活動を始め、20歳の時にパリに出ました。当時新しい芸術として台頭していたキュビスムや、美術館で出会った古代エジプトやエトルリア美術、アフリカやオセアニア彫刻の影響を感じる彼の作品を見たダリやブルトンらの誘いで1930年頃からシュルレアリスムの活動に参加します。しかし、彼がこだわる「見えるものを見えるままに」表すことは、無意識や超現実の世界を表すシュルレアリスムとは相容れないものでした。33年の父の死を契機に彼らの活動と決別、モデルに基づく彫刻へと回帰していきます。その造形への追求と模索はとどまるところを知らず、空間と人体との関係、人体そのものの本質を突きつめ続けて、代名詞ともいえる細長い彫刻と、線を重ねた油彩画やデッサンが生まれていきます。
第二次大戦中の指先ほどの小さな人物像から、戦後の女性立像、歩く男、群像など、繰り返される彫刻のバリエーション。気難しい彼の数少ないモデルをつとめた弟ディエゴ、妻アネットや、特別な存在であった日本人哲学者・矢内原伊作の肖像。表現に対する執拗なまでの不屈のこだわりは、作品に宇宙的な奥行きさえもたらします。
ニューヨークのチェース・マンハッタン銀行のために制作された3体の大作(プロジェクトは実現せず)と、1956年のヴェネツィア・ビエンナーレとベルン美術館での展示のために制作した石膏による女性立像を、のちにブロンズで鋳造した9点が揃うのも見どころ。
「ひとつの顔を見える通りに彫刻し、描き、あるいはデッサンすることが、わたしには到底不可能だということを知っています。にもかかわらず、これこそ私が試みている唯一のことなのです。」
不可能に挑み続けた、ジャコメッティの葛藤と到達点を、空間とともに感じてください。
「国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展」
開催期間:~9月4日(月)
開催場所:国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10時~18時(⾦曜・土曜⽇は20時まで、⼊場は閉館30分前まで)
休館日:火曜
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入場料:¥1,600