生誕150年記念「藤島武二展」で改めて追う、日本近代洋画を牽引した魅力。

生誕150年記念「藤島武二展」で改めて追う、日本近代洋画を牽引した魅力。

文:坂本 裕子

第9回の白馬会展に出品された、同一モデルを描いた6点の作品の1点と考えられています。瞑想的な表情の美しい女性の背景に咲き乱れる朝顔で「朝」を表す秀作です。 『婦人と朝顔』 1904年 油彩、カンヴァス 個人蔵

江戸から明治へ、近代化へと踏み出した日本には、西洋文化が一気に流入します。洋画もそのひとつ。世界を見たままに写す西洋遠近法や陰影法、輝く色彩で描かれたヨーロッパ近代の絵画は、日本画壇に大きな衝撃を与えました。この新しい技術を習得し、日本の西洋画を確立することを目指して、画家も国家も精力的に活動します。東京美術学校西洋画科の中心的存在であった黒田清輝の下でその教育を支え、次代をつくったひとりが藤島武二。この藤島武二の生誕150年を記念して、15年ぶりの大回顧展が練馬区美術館で開催されています。

1867年、まさに幕府終焉の年に薩摩藩士の家に生まれた藤島は、四条派や狩野派の日本画を習うも、17歳で上京。山本芳翆らに学び、洋画への想いを強くします。その卓越した技量が黒田に見出され、東京美術学校に職を得て、白馬会にも参加します。欧米で流行していたアールヌーヴォー様式をいち早く採り入れ、黒田とは異なる表現を確立するとともに、本の装丁なども手掛け、グラフィックデザインの先駆者としても名を馳せます。
38歳で遅まきながらの留学を果たし、フランスではポスト印象派やナビ派、フォーヴィスムなど新しい芸術運動に触れ、イタリアではルネサンスの古典様式を学びます。帰国後は大学教授として後進の育成に務めながら、東アジアの文化にも接し、西洋、東洋、日本を融合させた独自の美を、その女性像に昇華させました。
1928年には昭和天皇即位祝賀の油彩画制作の依頼に、自ら画題とした“日の出”の風景を求めて各地を旅します。この10年間に描かれた作品が、風景画家・藤島というもうひとつの頂点となりました。37年には第1回文化勲章を受章、その後中国から内モンゴルまでも経験し、晩年の大作『耕到天』へと至ります。

本展では、この彼の画業を3つの軸に、初公開の作品や資料、師事した画家の作品を含めた約160点が紹介されます。
日本画の経験やデッサンの重要性を説きつつも、自身の芸術観を「装飾画」「サンプリシテ(単純化)」「エスプリ(精神性)」で語った藤島。アカデミスムの主軸として近代日本西洋画を牽引し、佐伯祐三や小磯良平、猪熊弦一郎らに影響を与えた彼は、同時に新しいものを吸収し、自らを通して融合、発展させる生来の画家でもありました。

繊細で上品かつ豪胆で壮大。西洋と溶け合う東洋や日本文化の拡がり。秀作の並ぶ空間で、藤島芸術のエッセンスと幅広さを改めて感じてください。

黒田清輝の誘いで参加した白馬会第3回展に出品された作品は、外光派といわれる黒田の影響を強く感じさせます。2本の木立と湖、ベンチの背もたれの縦横が目に心地よく、ふたりの女性へと視線を促がします。 『池畔納涼』 1898 年 油彩、カンヴァス 東京藝術大学大学美術館

イタリア留学時代の作品。しっかりしたデッサンに人体のボリュームを捉え、粗い筆触が、当時の西洋画の技法を既に自分のものとしていたことを感じさせます。 『西洋婦人像』 1906-07年 油彩、カンヴァス 島根県立石見美術館

こちらもイタリア時代の風景画。ひょろりとした木と量感ある遺跡の石の対比、岩と空の色のコントラスト、構図、色彩ともに見事な構成の美しい小品です。 『ローマの遺跡』 1908-09年 油彩、板 石橋財団ブリヂストン美術館

イタリアではルネサンス期の作品を模写して遺した藤島。帰国後の傑作、横顔の婦人像のシリーズを生み出す源泉となった1枚です。 『ピサネルロ 「ジネヴラ・デステの肖像」模写』 制作年不詳 油彩、カンヴァス 鹿児島市立美術館

明治中期に来日した中国の政治家が、日本人の勤勉さと貧しさを語った言葉に想を得て、晩年に力を傾けた作品。せり上がる大地は、色面のリズムとなって、抽象画のようにも見える、彼の作品到達点と評されています。 『耕到天』 1938年 油彩、カンヴァス 大原美術館

「生誕150年記念 藤島武二展」

開催期間~9月18日(月、祝)
開催場所:練馬区立美術館
東京都練馬区貫井1-36-16
開館時間:10時~18時(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜
TEL:03-3577-1821
入場料:一般1000円
https://neribun.or.jp/museum/

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