画家フランシス・ベーコンの日本初公開のコレクションを見逃すな。
アイルランドのダブリンに生まれ、20世紀を代表する画家として知られるフランシス・ベーコン。独学で絵を学び、人間の生身の肉体や精神に向かい合ったベーコンは、歪んだ身体や咆哮するような人物画などを描き、ピカソと並び称されるほど高い評価を得ている。いまや多くの油彩画が世界各地の美術館に収蔵されているが、元来から素描は作らなかったとされ、絵画の制作に参照していた印刷物や、そこに描いた線や図像のほとんどを廃棄したと考えられてきた。
神奈川県立近代美術館 葉山館で『フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる』が開催中だ。今年1月から開催されたものの、コロナウイルスの感染拡大防止のためすぐに休館し、先日再開となった。展覧会では、ベーコンが世に出さなかった「秘密」を解き明かしている。ここではベーコンと親しく交流し、亡くなる前に作品や資料を譲り受けたバリー・ジュールのコレクションを約130点も展示。20代のはじめにキュビスムに影響を受けて描いた絵画や『Xアルバム』と呼ばれるドローイング、それに歴史的人物やスポーツ選手の写真に線や色を加えたデッサンを目の当たりにできる。すべてが生前に公開されなかった貴重な作品であるのは言うまでもない。
19世紀後半の古いアルバムに由来する『Xアルバム』のシリーズが必見だ。ベーコンは表紙と裏表紙に「X」と記された写真用のアルバムを切り離し、68枚のページにドローイングやコラージュを制作。そのうちの11枚が会場で展示されている。なかにはファン・ゴッホのシリーズやベラスケスの絵画に着想を得た「叫ぶ教皇」など、代表的な油彩画のモチーフも含まれている。しかし油彩画の準備段階として描かれたのか、別の作品として構成されたのかは分かっていない。
人体の運動、とくにボクシングや自転車競技といったスポーツの印刷写真に線描を施した作品にも注目したい。選手の動きに合わせて体の主軸を描いたり、画面を分割させたり、箱や檻のような背景を加えたりするなど表現はさまざまだ。またベーコンが惹かれていたバレエ・ダンサーのルドルフ・ヌレエフの写真へのドローイングには、雄々しい肉体美に焦がれるような眼差しも見られる。
2013年、没後としてはアジア初の大規模な回顧展が東京国立近代美術館などで開催され、国内でも脚光を浴びたベーコン。かつての展覧会では「身体」をテーマに油彩画の代表作が公開されたが、今回は知られざる作品に焦点を当てる。魂が憑依したように激しく線の震えるドローイングから、ベーコンの創作のインスピレーションの源泉を感じ取りたい。
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『フランシス・ベーコン バリー・ジュール・コレクションによる』
開催期間:2021年1月9日(土)〜4月11日(日)
開催場所:神奈川県立近代美術館 葉山館 展示室2–4
神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
TEL:046-875-2800(代表)
開館時間:9時半~17時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月
入場料:一般¥1,200(税込)※ウェブにて事前予約が必要
www.moma.pref.kanagawa.jp