83年のコム デ ギャルソン。81年にパリデビューして以来、世界に衝撃を与え続ける日本モードの雄。
日本のデザイナーズと、パリやミラノとの大きな違いは何だろうか。ひとつは日本に老舗と呼べるブランドがないこと。化粧品、バッグ、インテリアを含めたライフスタイル全般を手掛ける高級ブランドがない。デザイナーは自ら会社を立ち上げオーナーとして自身のブランドの運営もデザインも自由に采配してきた。その活動を支えてきたのが階級社会でない我が国の社会構造だ。ヨーロッパのクリエイションは上流階級をターゲットにしてきた。日本のデザイナーはヒエラルキーの上層にいる人の装いである夜のイヴニングドレスやフォーマルウエア、立派なビジネスウエアにはさほど目を向けず日常着に力を注いだ。価格も高価すぎず、トップデザイナーの服でも少し頑張れば学生でも購入できた。ルールや制約から解放されたクリエイティブな服を大衆が着て生活してきたのが、世界的にも稀な日本の近代ファッションヒストリーといえるだろう。
ファッション イン ジャパンでもっとも面積が広い会場が、国内デザイナーが大活躍しファッションブームが沸き起こった80年代ルーム。その観点でいうと10年代の部屋がもっともコンパクトである。優れたデザインはあっても80年代ほど大衆文化とはリンクできなかったようだ。市場を席巻したのは薄利多売のファストファッション。デザイナーには厳しい時代だった。
その先の20年代へと続く会場「未来へ」は、80年代と並ぶ大部屋。たくさんの現代の服が並ぶが、女性の活躍をテーマにジェンダーレス時代を表現したコム デ ギャルソンにもっとも力強さを感じるのは致し方ないところか。ほかの並びは知る人ぞ知るブランドが大半で、その服も街の空気とはつながっていないようだ。バンドのサカナクション、元欅坂48の平手友梨奈といった有名人と組んで広くモードを伝えようとするアンリアレイジのような社会性のあるブランドが増え、シーン全体が盛り上がることを期待しよう。
デザイナーとセレブリティとの関係を示す、山本寛斎が73年にデヴィッド・ボウイからの依頼でデザインしたジャンプスーツ。展示品は再制作されたもの。
80年代に一世風靡したアーストンボラージュを着る、ジャズトランペット界の帝王マイルス・デイビスとデザイナーの佐藤孝信。マイルスは同ブランドがニューヨークでショーを開催したときにも出演したほどの愛用者だった。
00年代にフォーカスしたエリア。ストリートとデザイナーズが融合する新しい感覚が台頭した時代だ。
00年代を紹介する左側はロリータ、ゴスロリ、パンク、中央はツモリチサト、右側手前3体はメゾン ミハラヤスヒロ。
10年代のエリア。手前から奥に、サカイ、アンダーカバー、フミト ガンリュウ。ミックスカルチャーの頂点といえるスタイリッシュなクリエイションが際立つ。
会場ラストを飾る現在進行形のエリア。手前の3体は20年のコム デ ギャルソン。ウィーン国立歌劇場のオペラ「オーランドー」での衣装制作に関連している。女性作家のヴァージニア・ウルフがジェンダーをテーマにした小説を元に、女性作曲家と女性台本家がオペラ化。すべてが女性というコンセプトに賛同して衣装参加したデザイナーの川久保玲による、社会的メッセージの強いコレクションだ。
21年のアンリアレイジ。「ホーム」をテーマに家にトランスフォームする服をクリエイト。着た服をどこにいても住む家にできる。世界的なパンデミックで人々の生活も意識も激変したなかで、いまデザインされるべきファッションの姿と向き合った意欲的なコレクションだ。
このエリアでデザイナーズに混じって展示されている、ユニクロのリサイクルダウンウエア。自社製ダウンウエアを回収して羽毛と羽だけを分離して再利用するシステムで、キーワードは「サステイナブル」。いま全世界のアパレルが一斉に向かっているファッションの姿がここにある。
現在は世界のモードブランドがダイバーシティを掲げ、日本ブランドのように大衆化してきている。海外ブランドはタレントや俳優をアンバサダー(宣伝モデル)に雇い、売上を伸ばすことに積極的だ。近代日本の象徴だった“カワイイ” 文化もどこかへ消え去り、 ファッション好きの人の数も減っているとされるなかで、我が国のブランドも新たな発信力が必要なのかもしれない。
ファッション イン ジャパンの現代エリアで、タウンスタイルではないがコスプレが取り上げられていなかったのは少々意外だった。任天堂のゲームソフト『あつまれ どうぶつの森』はキャラクター衣裳としてグッチ、バレンシアガ、セリーヌらがデザインを提供するほど注目されているメディアだ。ヴァーチャルとリアルを行き来する世界も、ますます重要なファッションフィールドになっていくに違いない。
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