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言語と身体を起爆させ、新たな映画表現に挑む。
アイドルを夢見る女の子が主人公の、『あの娘が海辺で踊ってる』が大学時代の処女作ながら劇場公開され、『5つ数えれば君の夢』では、渋谷シネマライズで公開された作品の監督最年少を記録。『おとぎ話みたい』はテアトル新宿のレイトショー観客動員を13年ぶりに更新し、山戸結希は20代にして既に、いくつもの〝伝説〞を生んでいる気鋭の映画監督だ。彼女がつくり出す映画には、刹那を生きる少女の切実な叫びが狂おしく刻まれ、新作を発表するごとに熱い信奉者を生んできた。
「大学で映画研究会を立ち上げた時も20人ほどの女子に囲まれていましたし、アイドルのミュージックビデオを撮るという機会にも恵まれました。近い存在である女子の身体を撮ってきましたが、普遍的な人間像を描きたいという思いはいつもあります」
彼女の唯一無二の感性は、詩のような言葉たちが役者の身体を通して起爆し、切り結ぶ瞬間に宿っている。その個性は、大学で哲学を学んでいたという経歴をもつが故に生まれたものかもしれない。デジタルカメラで撮られた作品に衝撃を受け、直感に導かれて映像の道へと進み、自ら映画を撮り始めて「言語によって抑圧されていた自分」に気づいたのだという。
「私が脚本に書いた言葉を役者という他者が物語ることで、出てくるものがある。その多重性を感じた時、映画をつくる面白さを実感したんです。フィクションのもつ飛躍の力に私自身の言葉が救われている感覚があります」
最新作は監督自身が愛してやまない同名コミックを映画化した『溺れるナイフ』。少女を描いてきた監督が、少年の内面に寄り添いながら「いつか男性を偶像的に、フォトジェニックに撮りたいと思っていた」という願いをかなえた作品だ。
そしてこれは、日本映画を牽引する若き役者と職人的な一流のスタッフとともに、映画という表現に妥協なく挑んだ格闘の記録でもある。
「なぜこのカットが私にとってNGなのか、言葉では説明できないけれど、どうしても譲れない時が何度もあって。その時、監督とは無根拠なことへの信仰心を炎のように感染させる状況をつくる存在であらねばならないのだ、と感じたんです。映画は集団で製作するものだからこそ、自分の目で見たことを大切にして進んでいきたい。そう強く思っています」
ジョージ朝倉の少女コミックを実写化。『溺れるナイフ』。©ジョージ朝倉/講談社
©2016「溺れるナイフ」製作委員会
時代の息吹を感じさせる音楽も山戸監督作に欠かせない要素。青春映画『おとぎ話みたい』は、2016年11月にBlu-ray & DVDが発売された。