【年末年始に行きたい展覧会】 注目の映像作家アピチャッポン・ウィーラセ...

【年末年始に行きたい展覧会】 注目の映像作家アピチャッポン・ウィーラセタクンを、東京都写真美術館で目撃しましょう。

壁一面に拡大された仮面をかぶったティーンエイジャー。 少年にありがちなおふざけにも見えながら、表情の見えない怖さが彼らの背負うその村の歴史と記憶を迫力で訴えます。『ゴースト・ティーン』(2013年)インクジェット・プリント

アピチャッポン・ウィーラセタクン。この名は、映画監督としてご存じの方も多いかと思います。2010年に『ブンミおじさんの森』でカンヌ国際映画際最高賞(パルムドール)を受賞したタイ出身の映画監督です。

バンコクに生まれ、タイ東北部のコーンケンという地方に育ち、シカゴで映像制作を学んだあと、実験的でインディペンデントな映画を制作して世界に知られました。その一方で、1998年からは現代アーティストとして、映像インスタレーションでも高い評価を得ています。日本でも多くの上映会や、美術館でのグループ展でも紹介され、いまもっとも注目のアーティストのひとり。先日まで開催されていた横浜美術館の展覧会でも出品していました。

彼の映画作品、映像インスタレーションをまとめて紹介する個展が、東京都写真美術館で開催されています。当館コレクションを中心に、本邦初公開作品を含む23点とアーカイヴで構成され、会期中は、作家本人がセレクトした短編集(4プログラム全25作品)の上映会も行われます。写真やフイルム、ビデオ、インスタレーションと、映像メディアを駆使した彼の多岐にわたる作品に触れられるのは、写真美術館ならではといえるでしょう。

タイトルに付された「亡霊たち」にはふたつの意味が込められています。ひとつは、写真や映像を通すことにより、それまで見えていなかったものや、異なる見え方を提示することがあるという、メディアがもつ特性のこと。もうひとつは、現代社会における政治や歴史の中にひそみ、わたしたちに作用する見えない力のこと。

メディアが顕現させるものと政治が内包しているもの、このふたつがさまざまな形で浮かび上がる空間は、いずれも静かな情緒をたたえ、時に怖く残酷な、時に悲しく告発的な、時に優しくリリカルな、そして時にどこか懐かしく切実な、「亡霊たち」のもの言わぬメッセージに満ちています。それは、彼が育った東北地方に残る伝説や民話、体験した個人的な記憶や夢、そしてタイという国がひいてきた圧政の歴史を、過去と現在を重ねて映しだしているから。

消えゆくものと残るもの、喪われたものと生まれるもの、愛しいものと憎むべきもの、それぞれを等価に拮抗させながら、記憶と物語が昇華する、アピチャッポンの魔術空間に浸ってみてください。(坂本 裕子)

口から煙を吐き出すのはアピチャッポンのパートナー。花火の閃光に包まれた姿は、煙が身体から抜け出した魂のようにも見え、ベッドの風景からくるあやし気な酩酊感と宇宙的な神秘を共存させます。 『悲しげな蒸気』(2014年)ライトボックス、昇華型熱転写方式

花火が照射するのはラオスとタイの国境近くの寺院彫刻。閃光が記憶を甦らせるという脳科学研究に着想を得た作品は、圧政への抵抗の遺物が記憶、歴史を雄弁に語ります。『花火(アーカイヴス)》』(2014年) シングルチャンネル・ヴィデオ・インスタレーション HDデジタル、カラー、ドルビーデジタル5.1、6分

35ミリの手動カメラで撮影された素材も使用し、彼の日常と恋人、友人、愛犬たちとの親密さの中に、失われた記憶やタイ社会の暗部も浮き彫りにします。『灰』(2012年)シングルチャンネル・ヴィデオ 東京都写真美術館蔵

すべてを焼き尽くす炎は、同時に次の実りをもたらすものでもあります。破壊と創造、攻撃と祝祭、相反するものを持つ火は生命と死、現在と未来という循環を表すアピチャッポンのおなじみのモチーフ。『炎』(2009年)インクジェット・プリント 東京都写真美術館蔵

タイ国軍の理不尽な統治に蹂躙されたナブア村で作成されたもののひとつ。忘れられていく悲惨な過去が、宇宙船という未来的なオブジェと愛犬とに込められているのかもしれません。『ナブア森の犬と宇宙船、2008年』(2013年)発色現像方式印画 東京都写真美術館蔵

「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」

開催期間:~2017年1月29日(日)
開催場所:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10時~18時(木曜・金曜は20時まで)
※2017年1月2日・3日は11時~18時 入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日、年末年始 2016年12月29日(木)~2017年1月1日(日・祝)
観覧料:一般¥600ほか
※上映会場別途料金:一般¥1,500(1プログラムにつき)ほか

http://topmuseum.jp/

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