空間で体感するプロダクトデザインの神髄。「AMBIENT 深澤直人がデ...

空間で体感するプロダクトデザインの神髄。「AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展」がかっこいい!

文:坂本 裕子

ケトルとティーポットの両使いできる「Cha」シリーズから生まれたクリーマー。美しい流線型のフォルムがステンレス仕上げなのに温かさを感じさせます。 「Cha クリーマー」 ALESSI 2015年 アレッシィショップ青山蔵

ALESSI、ARTEMIDE、B&B ITALIA、BOFFI、DANESE、MAGIS、BELUX、LAMY、THONET、HERMAN MILLERなどの世界的ブランドから、無印良品、マルニ木工まで。プロダクトデザインやコンサルティングを手がけ、国を超えて活躍するデザイナー、深澤直人。ご存じない方でも、デザインケータイのブームを起こし、後のスマートフォンにもつながったau(KDDI)の携帯電話「INFOBAR」シリーズの、シンプルながら大胆で美しいデザインは覚えているのではないでしょうか?

彼の国内初の個展「AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展」が、パナソニック 汐留ミュージアムで開催中です。電子精密機械から文具、家具、インテリア、家電など、多岐にわたる作品から選りすぐりで魅せる内容は、彼のプロダクトを一望し、創作のエッセンスを体感できるつくりになっています。

展覧会タイトル「AMBIENT」は「環境」を意味しますが、深澤はそこに「周囲」や「雰囲気」の含みを持たせます。彼が、常に使う人の存在と「もの」が置かれる空間を基本に置き、「もの」と空間が相互に作用して「いい雰囲気」が生まれることを考えてデザインしているからです。そうして彼のデザインした「もの」たちは、生活の中で使用され、置かれることで、周囲の空間もデザインしていくのです。

会場は、展示室を居住空間に見立て、彼の作品があたかも誰かの家を訪ねているかのように配置され、深澤の思想を立体化しています。玄関の照明に迎えられ、独りくつろぐ書斎をのぞき、機能美が際立つキッチンから、スマートで温かい雰囲気の居間へ。さらには身に着ける道具の棚を楽しみ、使いやすさと気持ちよさが一体化したバスルームや、思い思いの椅子に座って遊べるテラスや中庭まで。

そこに一貫しているのは、究極まで削ぎ落とされたフォルムやカラーリングなど、そのシンプルさです。しかし、どれもがほのかな湿度と温度を持ち、さりげないのに、しっかりと存在するやわらかな強さを持っています。私たちが普段行動する環境の無意識下に溶け込んだデザインを見つけ出し、多くの人が共感できる「アウトライン」を形にする……。これこそが深澤のデザイン哲学が生み出す「雰囲気」の具現化なのです。

住宅空間を考えるパナソニックならではの、照明と空間で体感する深澤直人の思考のかたち。デザイナー自らの厳しいスタンスと、使う人や環境への優しい視線に、なんだか嬉しい気持ちになる展覧会です。

全体が均一に光る「光の球」を実現した照明。会場で黒い壁に光るライトの美しさは、この美術館での展覧会にふさわしいプロローグです。 「モディファイ スフィア」 パナソニック株式会社 2012年

大きな木からくり抜かれたようなアームチェアは、その曲線をなぞり、座ってみたくなります。どんな空間にもあつらえたようにしっくりとおさまる魅力は、考え抜かれたフォルムと素材にあるのかもしれません。 左:「HIROSHIMA アームチェア」 マルニ木工 2008年 株式会社マルニ木工蔵 / 右:展示風景

「彫刻の置物のようにしたかった」というサイドテーブルは、きのこのような有機的なやわらかさと、テーブルという家具であることを両立させ、さりげなく同時に確かな存在感で空間を飾りながら機能しています。 左:「AWA」 B&B ITALIA 2009年 NAOTO FUKASAWA DESIGN蔵 / 右:展示風景

数字を12角形のガラス盤に換えたウォッチと握りやすさでおにぎりのような断面になったペン。機能とシンプル美の究極の形です。 左: 「ISSEY MIYAKE TWELVE NYOP001」 セイコーウオッチ株式会社 2015年 セイコーウオッチ株式会社蔵 / 右:「NOTO」 LAMY 2008年 NAOTO FUKASAWA DESIGN蔵

「人が使うためのデザインを感じてもらうには置かれた環境との相互作用が生み出す“いい雰囲気”の空間が大切」と彼がこだわった展示空間の中で。穏やかな表情に時折見える鋭い視線が、妥協しない彼のデザインへの想いを伝えます。 深澤直人氏 展示空間にて

「AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展」

開催期間:~10月1日(日)
開催場所:パナソニック 汐留ミュージアム
東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4F
開館時間:10時~18時(入館は閉館30分前まで)
休館日:水曜、8月14日(月)~16日(水)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入場料:一般1000円
https://panasonic.co.jp/es/museum/

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