西日の向こうと現実が、重なるとき。

『野村佐紀子 写真展 “GO WEST”』

碧南市藤井達吉現代美術館

西日の向こうと現実が、重なるとき。

赤坂英人 美術評論家

photo by Sakiko Nomura

photo by Sakiko Nomura

個展タイトルである「GO WEST」は、かつてアメリカ圏で「西部を目指せ」というキャッチ・フレーズで使われていた。またその後、「(同性愛者に理解のある)カリフォルニアに行こう」の意味ももった一方で、「お陀仏」「死」を指すこともある。野村は子ども時代から漠然と西方の夕日の向こうの世界に憧れがあったと言う。しかし、彼女の写真表現にいわゆる抹香臭さ、宗教性を感じることは少ない。 photo by Sakiko Nomura

写真家・野村佐紀子の代表的な展覧会だと、きっと将来言われるであろう個展『GO WEST』が開催される。本誌連載「創造の挑戦者たち。」の野村が撮る静謐なポートレート写真を通して、彼女のことを知っている人はおそらく多いだろう。
彼女は1967年山口県下関市生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科を卒業後、写真家の荒木経惟に師事。90年代から積極的に写真集を出版、展覧会も開催している。彼女の撮るポートレート写真は既によく知られるところだが、野村の撮影する独特の雰囲気を漂わせるモノクロの男性ヌード写真は、他の写真家の追従を許さない彼女独自のものだ。彼女しか撮りえないエロスの世界がそこにはある。野村は、まさに現代を撮る気鋭の写真家だ。
今回の個展『GO WEST』は、野村が初めて公立美術館で開く展覧会で、新作100点を中心に約290点で構成。展示のスタイルはインスタレーション感覚の斬新なものであり、そこにはキュレーターを務めた藤木洋介のアイデアが反映されている。
個展タイトルを見た時、「西方浄土」を思い浮かべたものの、まさか関係はないだろうと思ったのだが、聞くと野村は子ども時代、なぜか夕方の西日を浴びた風景をよく見ていたと言う。そして西方の“向こうの世界”を漠然と感じていたそうだ。
この個展の中で、野村が撮った男性ヌードや美術館が位置している愛知県碧南市の町の風景、生まれ故郷である下関の夕日の光景、西へ西へと彼女が旅して撮った日本や世界各地のスナップ写真の断片が交錯する。なかでもモノクロの風景写真が特に印象的だ。それは野村が子ども時代に感じた西日の向こうにある幻の原風景の記憶と、いま彼女が生きる現実の風景とが重なり交差した、一瞬のときを捉えた記録なのである。

『野村佐紀子写真展  “GO WEST”』
開催期間:12/21~2020年2/24 
会場:碧南市藤井達吉現代美術館
TEL:0566-48-6602 
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(2020年1/13、2/24は開館)、12/29~2020年1/3、1/14 入場無料 
http://www.city.hekinan.lg.jp/museum/

西日の向こうと現実が、重なるとき。