社会と向き合い、問いを霧に込めて。

『霧の抵抗 中谷芙二子』

水戸芸術館現代美術ギャラリー、広場 

社会と向き合い、問いを霧に込めて。

川上典李子 エディター/ジャーナリスト

「ロンドン・フォグ」霧パフォーマンス、#03779、2017年、テート・モダン。田中泯、高谷史郎、坂本龍一と制作。撮影:越田乃梨子

「ペプシ館」霧の彫刻 #47773、1970年、日本万国博覧会会場風景。撮影:中谷芙二子

「ユートピア Q&A 1981」(企画:E.A.T.)。撮影:深沢正次

「霧の彫刻家」として世界的に知られる中谷芙二子(1933年生まれ)。  
人工霧の作品は1970年、ロバート・ラウシェンバーグらが結成し、技術者と芸術家の協働で人間らしさを社会に問う実験グループ E. A. T.に参加する中で生まれた。場所は大阪万博ペプシ館。気象条件で形を変え、「大気を鋳型とするように現れる『ネガティブ彫刻』」の霧で建物を覆ったのだ。  
中谷の父は、「雪は天から送られた手紙である」の言葉で知られ、初めて人工雪の生成に成功した物理学者の中谷宇吉郎。観察眼は父譲りだが、霧の彫刻は、経済的な合理主義が優先され環境汚染の課題も生じた時代において、人と自然との関係を変えていかなくてはならないとの想いに基づく。中で遊べるようにと純粋な水のみで霧を発生させることにこだわり、独自開発の微粒子ノズルで実現させた。今回の展覧会はこの霧の彫刻の記録映像で始まる。屋内の霧インスタレーションと、屋外広場での霧の彫刻も鑑賞できる。  
中谷芙二子の実験は霧に留まらない。E.A.T.では71年に世界4都市をテレックス通信でつないで10年後の未来を語り合う「ユートピア Q & A」を行った。見知らぬ個人と個人の対話を40年以上も前に探った画期的な活動だ。  
1960年代から70年代、マスメディア時代が到来するとメディア・エコロジー(情報環境)を問い、メディア公害に対するオルタナティブなメディアの在り方の提案としてビデオによる実験も行った。80年には日本初のビデオギャラリー、SCANを原宿に開いてもいる。多方面に活躍する人材を育成した功績も忘れてならない。  
1970年代から現在まで、社会に向き合いながら、時代の流れにただ乗るのではなく、問い、試みを続けてきた。それが、「霧の抵抗」。実践者の軌跡と最新の作品は、私たちに多くのことを気づかせてくれる。

『霧の抵抗 中谷芙二子』
開催中~2019/1/20 
水戸芸術館現代美術ギャラリー、広場 
TEL:029-227-8111 
開館時間:9時30分~18時 ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(12/24、2019/1/14は開館)、12/25、12/27~2019/1/3、1/15 
料金:一般¥900(税込) 
www.arttowermito.or.jp

社会と向き合い、問いを霧に込めて。