私たちは作品の中に入って気付く、 現実はひとつではない、と。

『レアンドロ・エルリッヒ展: 見ることのリアル』

森美術館

私たちは作品の中に入って気付く、 現実はひとつではない、と。

赤坂英人 美術評論家

『建物』(参考図版)。パリの『百夜』(2004年)での展示風景。

『試着室』2008年。サンパ ウロのイグアテミ・ショッピングモールでの展示 風景(2016年)。Photo: Luciana Prezia Courtesy: Iguatemi Shopping Mall

『反射する港』。韓国国立現 代美術館の『ハンジン・シッピング・ザ・ボックス・ プロジェクト』(2014年)での展示風景。Courtesy: National Museum of Modern and Contemporary Art, Korea; Art Front Gallery;Galleria Continua1

人を驚かせ、同時に楽しくさせて、最後に深く考えさせる。そんな哲学的とも言える作品をつくるアーティスト、レアンドロ・エルリッヒ。彼の過去最大規模の個展が森美術館で開催される。1995年の初期作品から現在までの約40点が出品され、そのうち8割が日本初公開だという。 

エルリッヒは1973年アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。現在はウルグアイなども活動拠点にしている。彼の作品は、観客が参加し、体験することによって完成されるもので、その結果として「世界が違って見えてきて、新たな見方を与えてくれる作品」と言われている。 

その作品スタイルは、大型インスタレーションから映像、写真まで多岐にわたる。最も知られる『建物』シリーズは、観客が建物の壁面を模した床面にそれぞれ勝手なポーズで横になると、重力を無視して建物の壁面にしがみついているような光景が生まれるという体験型のインスタレーション。2004年にパリで開催されたアート・フェスティバル『白夜』で、初めてこのシリーズが発表された。 

こうした楽しい作品がエルリッヒの特徴だが、一方で、故郷であるブエノスアイレスの中心部に立つ『シンボルの民主化』という巨大な作品は、社会的メッセージを秘めた批評的なものだ。今回、エルリッヒは次のようなメッセージを投げかけている。「私の作品を通して、一人ひとりが『日常において、私たちがいかに無意識のうちに惰性や習慣で行動しているか』、そして『いかに常識や既成概念にとらわれて凝り固まった見方をしているか』ということに気付き、現実を問い直すきっかけになれば嬉しい。現実はひとつではない。それこそが現実ではないでしょうか」と。

『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』

開催期間:2017年11月18日(月)~2018年4月1日(日) 
会場:森美術館
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:10時~22時(月、水~日) 10時~17時(火)※入館は閉館の30分前まで 
会期中無休 
料金:一般¥1,800(税込) 
www.mori.art.museum

私たちは作品の中に入って気付く、 現実はひとつではない、と。