ガラスや陶磁に、美しい生命を与える。

『インゲヤード・ローマン展』

東京国立近代美術館工芸館

ガラスや陶磁に、美しい生命を与える。

川上典李子 エディター/ジャーナリスト

スタジオでのローマン。1943年生まれ。カペラゴーデン手工芸学校、スウェーデン国立美術工芸デザイン大学で学び、イタリアで陶芸も学ぶ。スクルフ社のガラス製品でデザイン賞を受賞。98年スウェーデン王室よりプリンス・オイゲン・メダルが授与。 photo: Anna Danielsson/Nationalmuseum Stockholm

「ボウル」2016年、インゲヤード工房 photo: Anna Danielsson/Nationalmuseum Stockholm

「ザ・セット」2017年、木村硝子店 photo: Anna Danielsson/Nationalmuseum Stockholm

ストックホルム生まれのインゲヤード・ローマン。静かな佇まいから豊かな詩情があふれ出てくるかのような美しいガラスや陶磁の作品を生み出す、世界的なデザイナーであり陶芸家だ。
ガラスではスクルフ、オレフォスの他、木村硝子店のためのデザインも行った。「2016/」プロジェクトで有田の香蘭社と取り組んだ磁器のテーブルウェアも話題だ。ローマンは言う。
「陶磁器は感覚的。自分の身体に近いと感じます。一方、ガラスの特色は透明性、魔法のようですね。ものを反射し、存在するか否かを捉えることも難しい素材。ガラスを吹く職人の言葉には、特に辛抱強く耳を傾けます」
美術大学で学んでいた際にガラスに触れる機会を得て、ガラスで有名なスモーランド地方の工場を訪ねた。1 97 0年代にアメリカ西海岸を旅した際には、マーヴィン・リポフスキーらガラス素材の可能性を探る「スタジオグラス運動」の作家にも出会っている。
以来、探究を続けている彼女は自らを「フォームギーバレ」と言う。英語では「form-giver」、形を与える者を、スウェーデン語ではデザイナーを意味する語だ。「私は芸術家ではありません。『クリュックマルカレ』、陶器をつくる人という言葉もしっくりきます」
こうした考えに触れられる、日本では初めての本格的な個展が開催中だ。会場デザインはスウェーデンの建築家グループ、クラーソン・コイヴィスト・ルーネ。スウェーデン国立美術館で開催された個展をもとに新たに構成される。「私にとって大きな意味のある日本で、みなさんの目で感じ取っていただけるのが楽しみ」とも語っていた。
展示作品は約180点。ガラス、陶磁、職人との共同作業によって誕生した品々など、「使われることで生命を宿す」ものの創造に真摯に向き合うローマンの世界観を、存分に味わえる展覧会である。

『インゲヤード・ローマン展』
開催中〜12/9 
東京国立近代美術館工芸館 
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:10時〜17時 ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(10/8は開館)、10/9 
料金:一般¥600(税込) ※11/3は無料観覧日 
www.momat.go.jp

ガラスや陶磁に、美しい生命を与える。