自由に満ちたデザインを、老舗メーカーから発信。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
泊 貴洋・文

自由に満ちたデザインを、老舗メーカーから発信。

金井あき Aki Kanai
アートディレクター
1983年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、2008年にコクヨに入社。14年に「ハローチェア」でコクヨデザインアワード社内特別賞を受賞。18年には、日本グラフィックデザイナー協会のJAGDA新人賞や東京アートディレクターズクラブのADC賞を受賞している。

今年、JAGDA新人賞やADC賞を獲得して脚光を浴びたのが、「コクヨ」のインハウスデザイナー・金井あきだ。金井は東京藝術大学のデザイン科出身。金髪に口ピアスという出で立ちで作品も奇抜だったという金井が、たまたま雑誌で特集記事を見かけて興味をもったのがコクヨだった。
「老舗企業なのに面白い取り組みをしていることに驚きました。募集をしてないのにグラフィック・デザイナーに応募したら受かって、『金髪もピアスもそのままでいい』と言われて。こんなにいい会社はないなと思いました」
入社後、コクヨデザインアワードなどのアート・ディレクションを担当。審査員ら外部デザイナーとの交流から多くを学んだという。
「特に心に残っているのは、内藤廣さんの『あたかもそこにあったかのようなものをつくる』という言葉。それに近い言葉を深澤直人さんも仰っていて、どうしたらそんなグラフィック・デザインができるか悩んでいたんです。そんな時に六本木交差点の上に見つけたのが、葛西薫さんがデザインした『ROPPONGI』のロゴ。毎日通る場所なのに、あまりに街に溶け込んでいて気づかなかった(笑)。『これだ』と思いました」
そうした学びが、昨年原宿に開店したコクヨ直営店「シンクオブシングス」で実を結ぶ。「誠実な製品をつくってきたコクヨらしさと、周辺のオシャレな店に埋もれない存在感」という相反する要素の間で模索した「そこにあるべきデザイン」が、受賞につながったのだ。
そんな金井のアイデアの源は「違和感」にあるという。
「たとえば飲料のパッケージを見て、『こんなに文字がいるのだろうか』と疑いをもつ。そういう違和感を心にとどめておいて、アウトプットします」
そのアウトプットが自由に満ちて、快い。それは金井が勝ち取った作風だ。
「デザイナーはクライアントからの要望に必死に応えようとします。だったらデザイナーの自分がクライアントであるメーカーにいるほうが、いいデザインができると思ってコクヨに入社しました。本当に自由につくらせてもらっています」ちなみに金髪は「会社に染まりすぎてはいいデザインはできない」と最近まで続けてきたという。「インハウス」と「アウトサイド」の視点をもつことも成功の要因に違いない。

works

「シンク オブ シングス」限定ノート。店名の頭文字「TOT」のロゴから展開させた模様が、コクヨの定番のノートを彩る。

コクヨデザインアワードのロゴ。「コクヨは男の子っぽい印象があって、自然とデザインに青や緑を使うことが増えました」

※Pen本誌より転載
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