小林武史 サステイナブルの行方。
人と人の間に響く、 想像力のスイッチ
オクダ サトシ(goen°)・絵 illustration by Satoshi Okuda
小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo
近年、地方型の芸術祭が脚光を浴びています。新潟の「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」が代表的なところでしょうか。その流れをくむカタチで、僕も牡鹿半島をおもな舞台に「Reborn–Art Festival」を開催しています。共通するのが、地域全体を美術館に見立てること。だから、田園地帯や水辺といった自然のなかに、著名なアーティストの作品が設置されたりします。
アートと自然が融合することで、なにが起きるのでしょうか。僕らは景色を眺めるとき、日常のものとして、当たり前にあるものとしてつい見てしまいます。そこにアーティストが想像力を働かせて生み出した作品を置く。すると、その風景は当たり前のものではなくなります。あるときは、そこに無数の命が宿りながら循環し、生きていることを思い出させてくれる。作品によっては、ここが宇宙の一部であり、僕らがつながっていることを示すときもある。各地の芸術祭を巡っていると、そういう神聖な気持ちに近いものを感じることがあります。
あえて信仰というものを選ばなくても、同じように身体にちゃんと響くもの、実感を伴うものは、人間に必要だと思っています。アートは、その役割を果たすことができる。それが分断した人々のなかで同じように響けば、両者の間を埋め、ふたつをつなぐことになる。音楽でも視覚的な表現でも、それは起こり得ること。アートには、そのような力があります。
僕らが知っていることは、まだ限られています。ソクラテスの「無知の知」に象徴されるように、人間はまだまだ不知の状態です。だからこそ、想像力を使って知らない部分を補っていく必要があります。大切なのは、イマジネーションとクリエイティビティ。僕らにはその力が授けられていて、だからいまいる場所が宇宙の一端であることを感じることもできるわけです。アートは、イマジネーションとクリエイティビティの象徴。アートに触れることが、そんな心の動きに変化をもたらすスイッチにもなり得ると思っています。
アートは経済と手を組むことで、普遍的な価値を纏わせたり、ときにはその価値をお金で操作することもできます。だから忘れてしまいがちだけれど、アートには異なる立場の人々の間を埋めたりつないだりする力がある。また未知の世界を補うための想像力を養う役割もある。持続可能な社会につながるそのような力は、これからもますます必要になると感じています。