イギリス最大の空港であるロンドン・ヒースロー空港で6月17日、ターミナルが一面のスーツケースで埋め尽くされた。かねてからの人手不足で荷物の処理能力が落ちていたところ、第2ターミナルで荷物を取り扱う機器が故障。これが決定打となり、チェックイン業務が破たんした。多くの旅客が荷物を諦めて空港に残し、大幅な遅延ののちに身一つで搭乗している。
空港に居合わせたイングランド・サウサンプトン大学図書館のスチュアート・デンプスター副館長は自身のツイッターを更新し、空港ロビーを埋め尽くすほどのスーツケースの写真を投稿した。デンプスター氏はユーモアたっぷりに、「遺失物はついに安住の地を……ヒースロー空港に見つけたようだ」とつぶやいている。「私のは、たぶん、黒だったと思う」とも加えたが、無数の荷物のなかからみつかることを願うばかりだ。
ヒースロー空港をはじめ、コロナ禍の減便により多くのスタッフを解雇した欧州の一部空港では、旅行需要の回復に伴う再雇用が追いついていない。同空港だけでもここ最近、航空管制の遅延、荷物のハンドリングの遅れ、グラウンドスタッフの不足など、多くの問題が発生している。
混乱はヨーロッパのほかの空港でも起きている。同じロンドンに位置するガトウィック空港、およびオランダのハブ空港であるアムステルダム・スキポール空港はフライト数に上限を設け、受け入れ便の一部をキャンセルした。
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チェックイン列で過ごす「みじめな休暇」
ヒースローの混乱は、20日に入っても続いた。第2・第3ターミナルを発着する便の10%がキャンセルされたほか、人手不足の第2ターミナルでは、旅行客らがチェックインの行列に数時間を費やした。英インディペンデント紙は20日、「手荷物処理の問題で(17日にも)数十の便がキャンセルされたが、ヒースローを発つ数千のイギリス人たちは今日また、みじめな休暇に直面している」と報じた。
影響は国際線を中心に広がった模様だ。同紙の報道によると、20日には長距離路線を中心に、19社が運行する計90便がキャンセルされたとみられる。1万5000人がフライトキャンセルの影響を直接受けた。英『I』紙によると、荷物処理の遅延に見舞われた旅客はさらに多数となり、数万人にのぼる。
一部の便のキャンセルを決めた英格安航空会社のイージージェットは、予約していた乗客の「大半」は同日中のほかの便に振り替え可能だったと説明している。しかし、スタッフ不足はこのところ慢性化しており、今後の見通しは厳しい。
スタッフの雇用市場が厳しく新規採用が難しいことに加え、保安検査の実施にも時間を要する傾向がある。このことから同社は、ガトウィック空港を出発するフライトの減便に踏み切る方針だ。これに伴い、航空券の価格が上昇する可能性があると同社は警告した。チケット価格の上昇はヨーロッパで問題となっており、英メトロ紙はこの問題を、「格安航空の終焉(しゅうえん)か」との見出しで取り上げている。
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職場に戻りたがらない元職員たち そのわけは……
英イブニング・スタンダード紙によると、ヒースロー空港運営会社のジョン・ホランド=ケイCEOは6月初旬、「航空部門が完全にキャパを回復するには、今後12〜18ヶ月」を要するだろうとの見解を示している。航空管制、保安検査、サプライチェーンなど、あらゆる部門でスタッフが足りていないのだという。
スタッフの雇用プロセスはただでさえ数ヶ月を要するが、問題はこれだけではないようだ。一度コロナ禍で航空会社を解雇された熟練スタッフのなかには、業界に戻っても安定した職が望めないとして復帰をためらう人々も多い。ホランド=ケイCEOは、「120万人分という記録的な求人」が出ているにもかかわらず、二の足を踏む経験者が多いと説明している。旅行需要が回復しつつある現在、最悪期に行った人員削減が思わぬ形で足かせとなっているようだ。
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