「サステイナブル」「SDGs」と言った言葉がすっかり浸透した現在。環境への配慮を意識している人は多い。
しかし「意識」だけで安心している人たちに対し、強烈なジャブを浴びせるようなインスタレーションが話題だ。
プラスチックの海洋汚染、タバコの吸殻による土壌汚染、気候変動など、社会問題を浮き彫りにする作品で知られるアーティト、ティス・ビアステーカー。オランダを拠点とする彼が今年発表したインスタレーション「MB>CO2」は、オンラインに伴うCO2排出量を可視化した作品だ。
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「MB>CO2」は、コンピューターに接続した3台のモニターと、ガラス管で繋がれている円形のテラリウムで構成されている。
モニターにはライブでビデオ通話をしている様子が映し出されている。コンピューターは通話発信者のハードウェア、位置情報、IPアドレス等の情報を基にアルゴリズムで各通話が放出しているCO2をライブで計算する。そして算出された量のCO2が目に見える「煙」となってテラリウムに放出されるしくみだ。
通話が続く限りCO2が排出され続ける。長く続けば続くほど、テラリウムの中はCO2濃度が過多となり、当然ながら植物はしおれてしまう。
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「1MB使用ごとに約20gのCO2を排出」という事実
コロナ禍を通じ、誰もがオンラインの有難さを痛感したはずだ。これまで以上にビデオ通話を使い、動画配信サービスを見続け、チャットやメールでのコミュニケーションに勤しんだ。仕事もプライベートも何もかもデジタルで行える時代の到来は、世代にもよるが多くの人に歓迎された。
しかしオンラインの使用が、CO2排出に大きく貢献していることは知っている人は少ない。
ビアステーカーは自身のサイトで「マサチューセッツ工科大学(MIT)の最新の研究論文によると、ビデオ通話とZoomは1時間あたり150gのCO2を排出し、メール添付は1MBあたり20g、Netflixは1時間視聴で450gのCO2を排出する」と紹介している。
データセンターなどのインターネットインフラは一般的に人目につかない場所にあり、またオンラインサービスプロバイダーは自社のプラットフォームの使用に伴う排出量データを公開していないことが多い。ビアステーカーは「Dezeen」の取材に対し、「この(オンライン)分野は、(意図的に)透明性が欠如しているのです」と語っている。
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この問題への注目を集めることに加え、インターネットやデジタル関連企業にCO2関連データの開示と情報の透明性を提唱するために、ビアステーカーはこのインスタレーションを制作した。
「複雑な問題を小さく親しみやすく見せることで、より広い世界を理解できることがあります」
「1つの行動、1回の視聴、1本の通話、1通のメールから排出されるCO2の量はわずかかもしれませんが、それが集まると大きなインパクトになります。この作品では惑星型のビオトープ(テラリウム)を使い、少量のCO2が大きな問題であることを示しています。ビオトープはあっという間にCO2で満たされますが、(インスタレーションという)小さなスケールでその影響を明らかにしました」
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「移動展示」のないアート作品
「MB>CO2」は、オランダにあるビアステーカーのスタジオに設置されている。展示法はライブストリーミングのみであり、海外のギャラリーやミュージアムに展示する予定はない。これは作品の輸送に伴うCO2排出を考慮してのことだ。
ストリーミングを予約すると、「MB>CO2」がライブ稼働している様子を視聴できる。しかし稼働時間は月に1度、しかもたった30分のみだ。これはテラリウム内のCO2が1100ppmを超えると植物がしおれるため、稼働時間を調整しているためとのこと。
人気作品のため、視聴予約はすぐには出来ないが、ビアステーカーのサイト内にある「順番待ちリスト」にメールを登録すると、順番を知らせてくれる。
オンラインなしの生活が考えられないのは誰しも同じだ。しかしただ生きているだけで知らず知らずにCO2を排出し続けている。「だったらどうしたらいい?」―― その答えはまだない。しかし、まずはテラリウムを地球に置き換え、背筋がゾッとするところから始めなくてはならないのだろう。
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【動画】美しく、そして恐ろしい作品動画
テラリウムにCO2が「ふわり」と注入される様子は、まるで毒が吹きかけられるよう。美しく、そして恐ろしい…。
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社会問題を提起する作品を製作してきたビアステーカー。2019年の作品「ポリューション・エンズ」は、たばこの吸い殻による土壌汚染をテーマにしている。