2020年のNHK連続テレビ小説『エール』を皮切りに、『VIVANT』などの話題作に相次いで出演している若手俳優、櫻井海音。原作コミック、アニメが社会現象となった『【推しの子】』のドラマ&映画化によって、彼の名前がさらに知れ渡ることは間違いない。櫻井が演じるのは、アイドルだった母親の死の真相に迫るため芸能界に足を踏み入れた主人公・アクア。彼自身も、原作の大ファンだったという。
「オファーをいただいた時はプレッシャーも感じましたが、それよりも、自分がアクアをやりたいという想いや高揚感のほうが強かったです。これまで自分がやってきた経験があって、今回オファーをいただけたと思うので、色んな偶然が重なってこのタイミングだからこそやれたと思います」
原作を愛しているからこそ、まずはビジュアル面を徹底的に追究した。髪は自毛を金髪に染め、カメラを通した時の色味を何度も調整したという。プロデューサー、監督とともに絶妙なバランスを探っていく過程を経て、アクアの内面に繊細にアプローチした。
「アクアが劇中劇でいくつかの役を演じるのですが、そこがとても重要な部分でもあるので、監督と話しながらつくっていきました。アクアとしてどんな気持ちで、どうやって役を演じていくのか。声色やしゃべり方も含めて試行錯誤しながら、原作を読み込んで表情や立ち方など、すべてを探っていきました。ドラマ『つまり好きって言いたいんだけど、』での劇中劇の経験も、糧になったと思います」
これまで『アオハライド』『君に届け』など、人気コミックの実写版にも多く出演してきたが、最も大切にしていたのは、羅針盤である原作に愛を持ち、忠実に演じること。再現にトライすることも、オリジナル作品で自分のイメージを広げて創造することも、両方楽しい。だからいまは「とにかく現場が好き」だと語る。
「役者って、孤独と戦わなきゃいけない仕事ではあると思うんです。家でひとりで脚本や原作を読み込む時間も多いですし。でも現場に行くと、みんなが同じ方向を見て、同じプレッシャーを背負って、一緒に戦っていける。だから僕は現場に愛を持って、作品のために自分がなにができるのかを考え続けられる役者でいたいです」
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“俳優部”のひとりとして、役割を果たしながら挑みたい
『【推しの子】』で映画初主演を担った彼にとって、座長として尊敬するのは、『未来への10カウント』で共演した木村拓哉だという。
「木村さんはものすごく現場を大事にされていて、さまざまな部署のスタッフさんがいるように、あくまでも役者は俳優部という役割のひとり、というスタンスで現場にいらっしゃって。常に周りをよく見ている姿に触れて、自分もうありたいと思ったことは、この仕事を始めてからの大きな出来事だったかもしれません」
自身の性格については、小心者で寂しがり屋だと分析する。
「それなのにロックに憧れている部分もあって、奔放な自分でありたいっていう気持ちもあるんです。そう思うんだけど、できない(笑)。ただ、もしかしたら役者をする上ではこの性格だからこそ、色々なリスクも考えながら一つひとつ役に近づいて挑戦していくという、いい面もあるのかなと思っています。人生に対しては、常に目的があって、何歳でどうなっていたいのかという明確なプランを持っているタイプ。そこに向かって進んでいるからなのか、『【推しの子】』のプロデューサーさにはハングリー精神があると言ってもらいました」
昨年、ドラマー・Kaitoとして所属していたバンド、インナージャーニーを脱退。だが、「バンドというかたちではなくなりますが、音楽は続けていきたい」と口にした。名前の由来は?と尋ねると、「確か、海の音のように和やかな人に、だったと思います。アクアの本名は、星野愛久愛海(アクアマリン)。同じ“海”が入っているのもうれしいですね」
静かな語り口の中にゆらめいている、青い炎のような情熱。どこかアンビバレントなものを感じさせる彼の持ち味は、さらに多くの人たちの心をつかむ引力になっていくことだろう。
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WORKS
ドラマ&映画『【推しの子】』
赤坂アカ・横槍メンゴによる人気コミックをドラマ&映画化するプロジェクト。櫻井は伝説的アイドル、アイの子どもとして転生した主人公のアクアを演じる。ドラマはPrime Videoで11月28日より世界独占配信スタート。その続きを描く映画は12月20日より全国公開。
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ドラマ『アオハライド Season1/Season2』
これまで映画化、アニメ化もされている咲坂伊緒の大ヒットコミックを2部作で連続ドラマ化した青春ラブストーリー。櫻井は出口夏希とともにダブル主演を務め、原作に忠実なアプローチで瑞々しいキャラクターをつくりあげた。WOWOWオンデマインドで配信中。
※この記事はPen 2025年1月号より再編集した記事です。