結論から言うと「レンジローバー PHEV」は、「レンジローバー」史上最高の完成度だと思う。このPHEVモデルは、ちょっと前に2024年モデルを1000km乗って、今回は2025年モデルを500km乗ったのね。公式なインフォメーションはないものの、年次変更で明らかに進化している。ステアリングインフォメーションが明瞭になっていて、挙動のすべてがより計算された動きになっているんだ。
お約束の濃密なホイップさながらの弾力に富んだ足まわりとともに、車体の揺れに連動する重心移動にはっきりとした意志を感じる。グラスの中で揺れるワインの自由さと、グラスの中で得意気に回してみせるようなお約束の減衰力バランスがある。
2024年モデルだって忠実なマナーがあったものの、さらなるキャリブレーションテストの積み重ねが反映されていて、2025年モデルは自ら「こう動くんです」という意志を感じることが出来る。まるでタンゴのダンスみたいにね。ペアとなるリードとフォローの関係にたとえれば、より密にコミュニケーションがとれているのはもちろん芸の見せどころも知っている。---fadeinPager---
リードらしくドライバーの意志を反映して車体をコントロールするし、ドライバーのリードに寄り添いながらも自分の自由な意志を見せるフォローの役割もこなせる。そしてタンゴ独特のテンポに入る強拍みたいにリードとフォローが一瞬、息を合わせる。2025年モデルにはシンクロする瞬間、息の合うテンポにたびたびハッとさせられるのね。
諸兄、これこそがレンジの沼ですよ(笑)。「イヴォーク」でも「スポーツ」でもない、旗艦モデルである「レンジローバー」にしかないハイコンテクストな底なし沼。エアサスの至高体験をもってして高級SUVの元祖として、誰も真似できない高みに達している。
話がそれるけど、初代「レンジローバー」は1992年に初めてSUVにエアサスを搭載したものの、トラブルが多発するのでアフターパーツでバネサスに換えるのが慣例だったりする訳。でも「それは止めておきなさい」と経験豊富なレンジ・マスターなら言う訳で、それがわかろうというものだね(笑)。「レンジローバーじゃなくなっちゃう」って、そういうこと。2025年モデルで、エアサスならではの特徴的な足まわりは芸事として究められたと言えるはず。
面白いのは峠でもコーナリングはだいぶ個性的ということ。攻めていくとカーブで思いきり車体は外側に振られるものの、ステアリングは中立を保つ。これは姿勢制御の賜物なんだけど、やっぱりタンゴのホールドと一緒でお約束の型があるのね。態勢をフラットに保ちながらも、常にカーブの脱出方向に姿勢が向く。第三世代までは速いスピード感をあからさまに嫌がっていたけど、この第四世代は苦し気ながらも「やれるところまではやりましょう」とステアリングの中立をまっとうしようとする。健気なまでにね(笑)---fadeinPager---
そして最後の本題は、オンロードで極まったこの足まわりに合うパワートレインはPHEVなのか、V8ツインターボなのかということですよ。PHEVのメインになるハイブリッド走行は力のある直列6気筒を甲斐甲斐しくモーターがサポートする。パフォーマンスを落とさない、そのマネージメントに舌を巻くのね。試乗時の燃料消費量はV8モデルと較べて半分ぐらい。ただV8ツインターボと比較すると、やっぱりエンジンのキャラと地力が際立つV8モデルに軍配を上げたくなる……。
いや、「レンジローバー」にとって至高はもうエンジンじゃない。もっとも“旬だ”と感じられ、ペアとしてあるべき走りだと感じたのはPHEVのEV走行に他ならなかったんだ。足まわりの優雅なマナーに寄り添うように静かに、かつ重厚なサルーンのように走る。ロールス・ロイスの「ファントム」にも似た静寂から力が生まれるような感覚と、車重の重さを味方につけた圧倒的なオーラがある。ドライバビリティだけで言えば航続距離100kmと言わず、ずっとEV走行でいて欲しかったね(笑)。この先、レンジローバーはEV化によってさらに高級化するのは間違いないし、どんな進化を果たすのか楽しみで仕方ないね。
レンジローバー オートバイオグラフィーP550e
全長×全幅×全高:5,065×2,005×1,870mm
排気量:2,993cc
エンジン:直列6気筒+ハイブリッド
システム最高出力:550ps
システム最大トルク:800Nm
駆動方式:クアトロ(四輪駆動)
EV航続距離:111㎞(WLTCモード)
車両価格:¥24,470,000~
問い合わせ先/ランドローバーコール
www.landrover.co.jp/range-rover