「大人の名品図鑑」特別編
雑誌『Pen』11月号のファッション特集のテーマは「2024年の名品を探せ!」。この企画にPen onlineで連載中の「大人の名品図鑑」チームもメディアミックスの形で参加することになった。担当する編集者小暮昌弘とスタイリスト井藤成一が、今年の気になったアイテムの中から、“推し”の名品を紹介する。
エベレストは世界で最も高い山だ。標高は8849メートル。この世界最高峰の山に人類が初めて登頂したのは1953年5月29日。ニュージーランド人のエドモンド・ヒラリーとシェルパ族のテンジン・ノルゲイのふたりがこの山を征服することに成功した。当時は多くの人がこの山に挑んでいるが、初登頂の29年も前に、英国人登山家のジョージ・マロリーとアンドリュー・アービンのふたりが同じエベレストに登っているが、山頂付近で消息を絶っている。彼らは登頂に成功するとカメラでいつも撮影を行なっていた。カメラが発見されれば、その謎が解けるはず。しかしマロリーの遺体が発見されるのは、遭難から70年後、99年。腰の周りにザイルが巻かれたまま状態で、驚くほどよく保存されていたが、カメラは見つからなかった。一緒に山に挑んだアーヴィンの遺体はまだ見つかっていない。ヒマラヤ登山史最大の謎と言われている。
イギリスを代表するデザイナー、ナイジェル・ケーボンが今季テーマにしたのが、今年100周年を迎えるジョージ・マロリーによるエベレスト登山だ。コレクションの代表作が、「フィンチ・パーカ」と名付けられたダウンジャケット。名前の由来になったのは、マロリーとともにエベレストに登ったこともあるオーストラリア出身のジョージ・イングル・フィンチという人物。彼の登山技術は高く、マロリーはフィンチと組まない限り山には登らないと言ったという説もある。また科学者でもあったフィンチは早くから登山における酸素吸引の必要性を説いていた。当時、エベレスト登山は国を挙げての挑戦で、第二次世界大戦まで英国がこの挑戦をリードしていた。しかし24年のマロリーが遭難したチャレンジにはフィンチは参加していない。いや英国でエベレスト登山を仕切っていた王立地理学協会によってフィンチは参加を拒否されている。フィンチが離婚の際に不誠実であったというのが表向きの理由だが、オーストラリア人のフィンチがマロリーよりも先んじて登頂に成功することを避けたという説もある。
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英国・マンチェスターの工場で手づくりされた、100着限定生産
実は2023年11月に公開した「大人の名品図鑑ダウンジャケット編」の第1回のPodcastで、ジョージ・フィンチの話が登場している。この回は1936年、世界で始めて量産型として製作されたアメリカのエディー・バウアーの「スカイライナー」を名品として紹介しているが、Podcastではそれ以前にもダウンジャケットがつくられた歴史があることを説明した。それが22年のエベレスト遠征のときにフィンチが依頼して製作したダウンジャケットで、当時は「アイダーダウンコート」と呼ばれていた。彼がこのダウンコートを着用した写真は現在も残っていて、今回、ナイジェル・ケーボンがつくったものはこのコートを参考にデザインされている。
ナイジェル・ケーボンが自身の名を冠したブランドをスタートさせたのは71年。それ以来50年以上ファッションビジネスにかかわってきた英国を代表するデザイナーのひとり。一般的なブランドとは違い、彼のコレクションはトレンドに流されない、ヴィンテージ衣料や素材をベースにデザインしていることが大きな特徴。故郷には彼が30年以上に渡って集めた4,000点以上のヴィンテージクロージングを所蔵していると聞く。03年には、エベレスト初登頂50周年を記念してヒラリー卿とテンジン・ノルゲイをテーマにした特別なコレクションも発表している。今回発表した「フィンチ・パーカ」はいわばそのときの“続編”とも言える。素材には彼が大好きで得意とする英国生まれの高密度コットンである「ベンタイル」を採用、これまで探検家などの最高品質のダウン衣料を製造してきた英国・マンチェスターの工場で手づくりされたもので、世界限定100着の生産だ。エベレストに挑んだ登山家を研究、デザインし続けてきたデザイナー、ナイジェル・ケーボンの渾身の一着だ。
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アウターリミッツ
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