デンマークのブランド、クヴァドラから、柳原照弘デザインによる新作テキスタイル「AME」が発表となった。日本の伝統的な縫いの技法である「刺し子」から発想を得ながら、繊細な美意識と巧みな色彩感覚、さらには環境に配慮したエコロジカルな思想をも、ハイエンドなモダンデザインのかたちに表していった。
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太さの異なる2種の糸をリズミカルなパターンで織り上げたクヴァドラの新作テキスタイル「AME」。細かな色の重なりが、霞がかかった空やそぞろ降る雨のように、環境によって微細に変化する美しい光景を描き出す。
「AME」をデザインしたのは神戸とフランスに活動拠点を構えるTERUHIRO YANAGHIHARA STUDIO(以下TYS)の柳原照弘。彼が発想の源にしたのは、日本の伝統技法のひとつ「刺し子」だ。もとは衣服の保温性を高めたりほつれたものを補強するために、布地を糸でかがったり、繕ったりしたことを起源とする手芸の技で、東北地方を中心に発展。その後、装飾性も加わり、複雑な幾何学模様の図柄を展開するに至り、特に青森の「こぎん刺し」や山形の「庄内刺し子」が広く知られている。
クヴァドラとの協働は、コーティングテキスタイル「HAKU」、季節のうつろいを表現した「Autumn」に続き、「AME」が3度目となる。柳原照弘は、再生可能な循環素材の活用を目指すクヴァドラのビジョンを意識。単なるパターンデザインにとどまることなく、ものを大切に、美しく使い続ける「刺し子」の文化的背景をもデザインに取り込んでいった。
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「手仕事の細やかさ、文様の特徴が注目される刺し子ですが、歴史の原点を辿れば、着物が買えなかった農民たちが、端切れを一つひとつ大切に集め、繋ぎ合わせながらかたちづくった究極のリサイクルです。だからこそ、新しいテキスタイルのことも、古いものを丁寧に見返し、新しい存在を考えることから始めようと思ったんです」
そう語る柳原は、アーティストの吉田真一郎が所蔵する膨大な古布のコレクションや衣服、糸、道具を、プロジェクトメンバーとともに綿密にリサーチ。刺し子の技だけでなく、いかに日々の暮らしのために素材を厳選し、大切に扱い、再生を重ねてきたのかという人のふるまいそのものを一つひとつ拾い上げながら、デザインへと集約していった。
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もうひとつ、「AME」の特徴は、独自のカラーパレットだ。平安時代の宮廷に生きた人々が、階級や季節に応じてさまざまな色彩の着物を絶妙に重ね合わせて着用していたことに柳原は着目。日本の伝統色と欧米の色感覚を融合しながら、新しい色目の組み合わせにチャレンジした。
「はっきりとした色相を好む西洋と、あいまいな色のグラデーションを楽しむ文化を持つ日本。これらを融合することで、意外性を併せ持ちながらも、空間にすっと馴染む色の組み合わせを考えました」
「AME」の原料となる再生ポリエステルは、テキスタイルの生産プロセスのなかで生じる繊維廃棄物を回収したのち、分別、細断したものを分子レベルで分解。新たに精製し直したポリエステル糸から紡いでいったもの。最先端の繊維技術に、温もりのある人のいとなみと奥深い感覚を掛け合わせた「AME」は、穏やかな空気感をつくり出すインテリアファブリックとして、今後さまざまな空間で使われていくことだろう。
クヴァドラ ジャパン
TEL:03-6455-4155