18世紀の江戸は、人口100万人を超え、商人を中心に庶民がその文化の担い手になって活況を呈する、パリやロンドンにも並ぶコスモポリスでした。そして古代より関係の深いお隣の中国・北京は、清朝の首都として最も隆盛を誇った時期でした。鎖国の印象が強い江戸時代ですが、オランダと並び、中国とは長崎出島を通して、産物や文化の交流は途絶えることはありませんでした。
そんな同時代の両都市の文化や生活慣習を、居住、商い、ファッション、子育て、歳時、学問、遊び、演劇といった、身近なテーマによってセレクトした作品たちで比較する展覧会が、江戸東京博物館で開催中です。清朝の芸術や宮廷文化を紹介する展覧会はこれまでにもありますが、同時代の「生活」を切り口に両都市を比較する企画は初めて。互いの共通点と相違点を探しながら時代の空気を感じる、おもしろい空間が展開しています。
最大の見どころは、江戸は目抜き通り日本橋の、北京は乾隆帝80歳の式典に沸く西安門内大街の、それぞれの賑わいを描いた絵巻が全巻公開される競演です。江戸を描く《熈代勝覧(きだいしょうらん)》はベルリンから11年ぶり3度めの里帰り、北京を描く《乾隆八旬万寿慶典図巻》は日本初公開です。びっしりと描きこまれた人々の動きや表情はそれぞれに個性を持ち、街の様子や建物も細やかに、いずれも甲乙つけがたし。必見です!
このほか、風俗画はもちろん、当時の住居の模型、絵巻にもあるような店先の看板や、端午の節句の飾りと子どもの衣装、男性の正装服や女性の婚礼服、子どもたちが遊んだ玩具や大人の携帯した小物、工芸品など、多様な作品で、モティーフや細工、その意味が比べられる趣向になっています。“似てて、違う”、相似と相違の発見は、会場をあっちへ、こっちへ、駆け回りたくなる楽しさです。
最終章では、すべての作品が日本初公開という、首都博物館所蔵の清朝宮廷芸術や文人文化の精華、民間の優れた職人による工芸品が紹介されます。日本では沈南蘋で知られる沈銓(ちんせん)の画や官窯の制作を証する款のある精緻な陶磁器、驚くべき技で青玉を彫刻した朝顔形の水滴など、江戸人が憧れた北京文化も堪能できます。
国や体制は異なっても、現れ方や形象は異なっても、同じ時代に生まれた人々の「生きる」という活き活きとした息吹は変わらぬもの。なんだか時(世紀)も空(地理)も飛び越えて、ウキウキしてくる展覧会です。
「特別展 江戸と北京 18世紀の都市と暮らし」
~4月9日(日)
開催場所:江戸東京博物館 1階特別展示室
東京都墨田区横網1-4-1
開館時間:9時30分~17時30分(土曜日は19時30分まで)
(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし3/20は開館)、3/21
TEL:03-3626-9974
入館料:特別展専用券¥1400、特別展・常設展共通券¥1600
http://www.edo-tokyo-museum.or.jp