子どもたちが遊びまわる、
外に「はみだす」家。

安城の家 愛知県安城市 2015年

室内と庭を対等に、
外で楽しむ時間を
家の中に引き込む。

雑誌でよく見る谷尻さんたちと初めて会って話した時は緊張したと振り返る、この家の主Dさん。しかし会話への不安はすぐに吹き飛んだと言います。
「スポーツの話で盛り上がって、あまり建物の話はしませんでした。けれど後になって、どんなことを考えているのかしっかり聞かれていたんですね」
サポーズデザインオフィスに依頼を決めたのは、「なにが出てくるかわからないところに惹かれた」からだそう。幼少時に川や山で遊んでいたというDさんは、愛でるのではなく「機能する庭」が欲しかったと言います。谷尻さんたちもまた、仲がいい家族の姿に加え「庭で子どもたちと遊びたい」というひと言をきっかけにアイデアを膨らませました。結果生まれたのは、庭と家が1:1という対等な関係にある家。谷尻さんたちは、家の外が生活の領域にならないのはもったいないのではないかと疑問を投げかけます。
「キャンプで食べるカレーがおいしいように、外の豊かさを生活に引き入れてもいいかなと。この家は空間が大らかで、子どもたちも生き生きとしているのがうれしいですね。これまでいろいろな中間領域をつくってきましたが、住宅をここまで開くのは挑戦でした」

上:住居とほぼ同じ面積をもつ庭にも大きな屋根がかかります。屋根はところどころ開いているので、風や光、雨も降り注ぎ、木が成長をすれば幹は屋根を超えていきます。天気が悪くても子どもたちは雨をも遊び道具に変えてしまう柔軟性をもちます。右:庭には砂場や木登りができる木などがあり、子どもたちは縦横無尽に遊びまわります。今後、成長に合わせて庭に新しい要素を加えていきたいとDさんは意気込みます。

1・2階ともにガラスの引き戸をすべて開放してしまえば、室内と庭はひとつなぎの空間になります。庭用の水まわりを設け、外でのさまざまな作業に使っているそう。

上:1・2階ともにガラスの引き戸をすべて開放してしまえば、室内と庭はひとつなぎの空間になります。庭用の水まわりを設け、外でのさまざまな作業に使っているそう。
中:庭には砂場や木登りができる木などがあり、子どもたちは縦横無尽に遊びまわります。今後、成長に合わせて庭に新しい要素を加えていきたいとDさんは意気込みます。
下:住居とほぼ同じ面積をもつ庭にも大きな屋根がかかります。屋根はところどころ開いているので、風や光、雨も降り注ぎ、木が成長をすれば幹は屋根を超えていきます。天気が悪くても子どもたちは雨をも遊び道具に変えてしまう柔軟性をもちます。

器と料理のように、
家と暮らしの
組み合わせを楽しむ。

「こんな環境だから他の家の子に比べ、外の遊び方が上手なんじゃないでしょうか。家が完成した時もすぐに順応して、ずいぶんと興奮していました」
とはいえそのように話すDさん自身も木登りを楽しむ子どもたちに負けず、自ら吊ったハンモックでのんびりと庭を楽しみます。庭にテントを広げてキャンプをしたり、食事を楽しむことも多いとか。「庭によって家が広がっていく感じがします」とDさん。子どもたちが大きくなれば、また違う楽しみ方もあるかもと期待も高まります。
またDさんは大工仕事が得意で、手作業で吹き抜けに床を張るほど。「あとでつくり足しても目立たない素材」と、建物の内外に同じ合板を使って後々自らがカスタムできるようなつくりをリクエストしました。庭に面した2階のユーティリティルームも、もっと庭に近づけたいと出窓の仕様を開放できる引き戸型へと変更を依頼。外とのつながりをより強く感じられるようにしたのは正解だったと言います。
「以前はきれいな家できれいに住みたいと思っていましたが、いまは違います。器と料理の組み合わせのように、この家らしい少し雑多な暮らしを楽しみたいです」

上:リビング・ダイニングのガラス戸を戸袋にしまい込めば、庭は第二のリビングルームへと早変わり。友人が遊びに来ても、大人が室内で談笑を楽しみながら、子どもたちが外で遊ぶ姿を見守ることができると言います。 左下:ダイニングテーブル越しにリビングルームを眺める。壁の奥に水まわりが集約されています。 右下:Dさん一家は昨年生まれた次女を含め、4人の子どもが。キッチンも横長で使いやすく、見せる収納に合わせて食器選びも変わったと言います。

建て終えてから、
住まいのもつ
物語は始まる。

サポーズデザインオフィスの家は「無駄」を楽しんでほしいと谷尻さんは言います。無駄、つまり余白が住まいに大らかさを生む。機能性にとらわれ、余白をつぶすと家の可能性が失われるのではないかと危惧します。
「住宅は建て終わったところからできていく場所なんです。僕たちはいまつくっておくべき場をしっかりつくるだけでいい。成長する家をつくりたいんです」
谷尻さんと吉田さんはいま考えている以上のものをつくるために、気づきを続けること、知ることに貪欲であることを大切にしたいと言います。そのために事務所に食堂をつくり、不動産会社を始めました。「自分たちに飽きたくないんです」と吉田さんは言います。
「いまやファッション誌まで、私たちの建築を取り上げてくれるようになりました。枠組みを外していくことでもっと自由な家をつくっていけるように思います」
「僕たちはもともとアカデミックじゃなくて、雑草のような建築家。わかりやすく、そしてオープンに。サポーズというチームで普遍性と多様性を兼ね備えた空間をつくり続けたい。家も僕たちも、年を重ねてなお魅力的でありたいんです」

吹き抜けが気持ちいい、広く取られた玄関。ここも作業場のひとつとして考えられています。右手は収納を兼ねた階段。

左:2階は大きなホールに面してガラスの引き戸で仕切ることのできる子ども室が続きます。まだ子どもたちが幼いため、棚とベッドを置く程度。オープンな環境で、カスタム可能な室内はまだまだこれから変化をしていきそうです。 下:右手が玄関。左手の大きな開口部から庭にアクセスできます。最近は玄関ではなく庭から直接やってくる人も多いとか。

家族構成:夫婦、子ども4人 構造・規模:木造2階建 敷地面積:226.85㎡ 建築面積:118.40㎡
延床面積:168.67㎡(1階117.72㎡、2階51.15㎡)