住み継がれ、愛される、
竹林に生まれた家。

北鎌倉の家 神奈川県鎌倉市 2009年

敬遠される土地に
魅力を見出した、
橋のような構造の家。

2009年に完成したこの家で暮らすのは、3組目のオーナーであるAさん一家。残念ながら転勤などを理由に2組のオーナーがこの家を手放すことになってしまいましたが、その結果もたらされた思いがけない出合いにAさん一家は転居を決めたといいます。谷尻さんもこの家に思いが強く、「4組目のオーナーになりたい(笑)」とか。
「最初のオーナーさんとは土地探しから手伝いました。ようやく見つけた厳しい傾斜の土地は他から敬遠されて残っていた場所。けれど僕らにはそれが魅力的に映ったんです。ここでは土地を活かすプランと土地に合った工法も含めて提案しました。この家は橋と同じような構造でできてます。橋から見える景色ってきれいでしょう。そんな楽しさをもたせたかったんです」
この家が立つのは高低差のある2段になった敷地です。谷尻さんと吉田さんはまず、それぞれの段に橋脚のようにコンクリートの構造物をつくりました。そして、2つの段にある橋脚に橋桁をかけるように鉄骨をかけて段をつなぎます。橋脚にあたるコンクリートの空間には和室や書斎、バスルーム、寝室などを。橋桁にあたる部分にはリビングダイニング、キッチンを配置しています。

橋をヒントに、高さの異なる段上の土地それぞれにコンクリートの構造物をつくり、そこに橋をかけるように鉄骨を通し、リビングダイニングとなる空間をつくり出しています。

右:リビングダイニングの床はタイル製。夏も風が通り抜け、心地よく暮らせるといいます。Aさん一家のパートナーであるふじちゃんも過ごしやすそう。竹林まで連続するテラスがあり、ゆくゆくはもっと手入れをしていきたいとAさんは話します。 下: キッチンの上にロフトのような上階をつくり、その奥には寝室を配置しています。天井の高い開放的な空間から隣接する竹林を間近に楽しむことができます。

上:橋をヒントに、高さの異なる段上の土地それぞれにコンクリートの構造物をつくり、そこに橋をかけるように鉄骨を通し、リビングダイニングとなる空間をつくり出しています。
中:キッチンの上にロフトのような上階をつくり、その奥には寝室を配置しています。天井の高い開放的な空間から隣接する竹林を間近に楽しむことができます。
下:リビングダイニングの床はタイル製。夏も風が通り抜け、心地よく暮らせるといいます。Aさん一家のパートナーであるふじちゃんも過ごしやすそう。竹林まで連続するテラスがあり、ゆくゆくはもっと手入れをしていきたいとAさんは話します。

自分たちでは
想像もしない空間が、
購入の決め手に。

橋の両端に機能的な個室があり、橋上にみんなの集う空間があるといえばわかりやすいでしょう。橋上では水面を楽しむように、ここでは竹林を楽しむことができます。
この家は「大野の家」に次いで、数多くの建築雑誌に取り上げられました。なかでも、初めて伝統ある建築雑誌『GA HOUSES』に掲載されたことはうれしかったと谷尻さんは振り返ります。とはいえAさんは、サポーズデザインオフィスの名を知らずに購入を決めたと言います。
もともと都心にマンションを購入し、リノベーションを行って暮らしていたAさん。ある日、不動産を取り扱うサイトでこの家が売りに出ていることを知り、魅力を感じたことが住み替えのきっかけだと言います。
「鎌倉に憧れていたわけでもなく、ただこの建物に心惹かれたことで購入を決めました。サポーズデザインオフィスの名を知ったのも購入後のことなんです。以前の住まいもリクエストをもとに一から設計していただいたリノベーション物件で満足はしていました。けれどここにきて、まず自分たちから出ないだろう住宅の発想に驚いたことを覚えています。これ以上素敵な家を今後手に入れる機会はないと思い、購入を決意したんです」

上:キッチン。落ち着いた色みの木材でつくられた空間に合わせ、Bさんは家具もウォルナットのものに買い換えたそう。 左下:下段のコンクリート部分にある書斎。玄関も兼ねています。 右下:書斎から螺旋階段で橋桁にあたるリビングルームのある上階へ。階段脇は収納と和室が設えられています。

思いもよらないことも
楽しめるのが、
家というリアルな場の魅力。

鎌倉の中心部からも近い竹林に囲まれたこの家は、リゾートのようだとBさん。山あいから風が抜け、ガビチョウの美しい鳴き声が響く時間が格別であると続けます。
「実は住み替えを考え始めた時に夫婦それぞれで望む条件を出し合ったのですが、この家はほとんどすべてをクリアしていました。私が望んだひとつが窓のあるお風呂。ひとりで家にいる時はすべて開け放って入ることもあります」
Aさんは依頼主ではありませんが、谷尻さんはサポーズデザインオフィスの家で暮らす人々を、「状況を能動的に楽しめる大らかな方が多い」と評します。それが家を楽しむことにつながっているのではないかと続けます。住宅の機能だけを考えてしまうと土地の魅力が半減してしまうと谷尻さんたちは考えています。
「僕たちはクライアントの要望を無視することなく、自然に寄り添って人工物をつくっていきます。けれどすべての状況がコントロールできるわけもなく、目的と違うことも起こる。でも目的をもって建物に入り、意図と違う体験ができると心が動くこともあるでしょう。いまは目的だけを叶えたいのであればネットが近道。直線的ではなく寄り道ができ、新しい体験ができるのが現実の利点ですから」

左:浴室とともにある洗面室には壁と一体化した収納と鏡が。細かなつくりこみもサポーズデザインオフィスの魅力のひとつ。 上:浴室は擁壁に面していて外からの視点がないため、大きな窓で開放的に。ダイニングルーム側もスライド式で開閉するガラス戸で仕切られ、カーテンで視点を遮ることも。誰もいない日はすべて開け放って入浴すると葉擦れの音もあいまって、リゾートホテルのようだとAさんは言います。

リビングルームから見上げると開放的でありながら竹林に隣接する姿がよくわかります。キッチン上のロフト奥は寝室。壇上に部屋が積み重なり、寝室上にも天井の低いロフトが。ここは収納部屋として使われます。

家族構成:夫婦、子ども1人、犬1匹 構造・規模:鉄骨・鉄筋コンクリート造2階建 敷地面積:330.31㎡ 
建築面積:60.24㎡ 延床面積:113.62㎡(1階24.44㎡、2階下部57.18㎡、2階上部32.00㎡)