パネライは、素材の多彩さと並び、新素材に対する意欲で注目されるブランドの筆頭格です。今年のSIHHで見ても、新作「サブマーシブル」のケース素材はSS、ブロンズ、レッドゴールド(オロ ロッソ)、チタン。さらに「ルミノール 1950」にはカーボンファイバーのシートを積層する“LAB-ID™”が登場しました。外見だけでマテリアルを特定できるとは限らず、特性や重さ、装着感が先入観をいい意味で裏切るのが、現在のパネライの大きな魅力といえるでしょう。
そんなパネライの素材づかいで、今年もっとも注目を浴びたのは“BMG-TECH™”ではないでしょうか。この、初耳のケース素材が採用されたモデルが「ルミノール サブマーシブル 1950 BMG-TECH™ スリーデイズ オートマティック - 47mm」。その素材の正体は“金属ガラス”です。
ガラスと言ってもガチャンと割れてしまうようなものではなく、むしろその逆です。衝撃に強いしなやかで堅牢な性質をもち、腐食にも強く、磁気への耐性がある、夢のような未来的素材なのです。ガラスと呼ばれるのは、非結晶性の構造が共通しているからというのが理由なのです。理系の方なら“アモルファス金属”という言い方になじみがあるでしょうか。
ごく大雑把に言うと、特殊な溶解と冷却のプロセスで得られる、原子の並び方が不規則な金属ということになります。不規則ゆえにしなやかであり、電子の方向が一定ではないので耐磁性が生まれるのです。言うのは簡単ですが、研究もまだ途上の物質であり、腕時計ケースに採用されたこと自体がニュースです。
余談ですが、風防ガラスの“サファイヤクリスタル”は、結晶構造ですので実は“ガラス”ではありません。そしてパネライは、コランダムを原料とする単結晶のサファイヤ風防に強くこだわってきたブランドでもあります。素材への強いこだわりが生んだのは、ガラスではないサファイヤ風防をもつ、金属ガラスのケースの腕時計であったわけです。(文:並木浩一)
●問い合わせ/オフィチ―ネ パネライ TEL 0120-18-7110