各界のクリエイターが語る、少し先の未来予想。

世をリードするクリエイションは、未来を見つめることから生まれる。時代の転機を迎えているいま、創造者たちはどんな未来を予想しているのだろうか?

高橋智隆 ロボットクリエイター、ロボ・ガレージ代表取締役社長

AI技術の進化によって、
プロダクトへの愛着がさらに増す。

  • 電話やメールができる機能を内蔵する「ロボホン」。通話のほか会話やゲームを楽しみダンスを踊ってくれるなど、多彩なコミュニケーション機能を搭載する。

「ロボット分野にも通じるモーターとバッテリを使ったEVにはとても親しみを感じています。進化を続ける自動運転との組み合わせで、これから本格的に普及していくと思います」と語るのは、「ロビ」や「ロボホン」といった人気のコミュニケーションロボットを世に送り出してきた高橋智隆さんだ。

「AIによる音声対話の進化にも期待しています。EVが普及する要因として重要な技術だと感じています」

そして、そのキーワードは「愛着」であると、高橋さんは続ける。

「自動運転の進化の過程では、クルマとドライバーが共同で運転をするようになるでしょう。その時、いまクルマが何を考えて何をしようとしているのかを知るために、クルマと人のコミュニケーションが必要になる。すると、クルマに人格やキャラクターのようなものを感じ、より信頼や愛着を抱きやすくなるはずです。それによって自らの愛車を大切に扱おうという気持ちになり、それは安全運転にもつながるでしょう」

高橋さんは、「Honda e」のデザインにも愛着の一因を見出した。

「小型でツルンと愛らしい、より感情移入しやすいデザインですよね。僕は過去の名品のテイストを取り入れた復刻版的なデザインが大好きなのですが、このクルマにも初代のシビックやシティなどの面影が感じられる。培ってきたヘリテージを尊重し、ブランドの血統を継承し続けることで、何世代ものユーザーに愛着が引き継がれていくのではないでしょうか」

高橋智隆 ロボットクリエイター、ロボ・ガレージ代表取締役社長

1975年、京都府生まれ。京都大学工学部卒業時に学内ベンチャー企業、ロボ・ガレージを創業。雑誌全70号の付録パーツで完成する「週刊ロビ」や、ISSで若田宇宙飛行士と会話した「キロボ」など、話題のロボットを開発。東京大学先端科学技術研究センター特任教授などを歴任。

木下 斉 社会起業家、まちづくり専門家、エリア・イノベーション・アライアンス代表理事

賑わいを失った地方都市に、
新しい人の流れが生まれていく。

  • この夏、北海道余市の仲間とともに会社を設立し、ワイナリー内にグランピング施設をオープン予定。ここを拠点にワインツーリズム事業を展開する予定であるという。
  • 「オガール」では、BBQも可能という広大な芝生の広場を中心に、公共施設と民間の店舗がシームレスに軒を連ねる。「全国から視察に来る施設として、2年連続で日本一となりました」と木下さん。

シャッター商店街に象徴されるように、多くの地方都市では賑わいの場が失われ、活力を削がれてしまった。その打開策はあるのか。まちづくりの専門家である木下斉さんに、少し先の未来の街の姿を聞いた。

「1991年、ショッピングモールの出店を規制する大店法が改正され、全国の商店は大打撃を被りました。ネット通販も現在では20兆円規模に成長と、残念ながら商店街にとって明るい材料は皆無といえます。かつての賑わいを取り戻すのは不可能といえるでしょう」

とはいえ、地方再生のカギがないわけではない。木下さんが提案するのは、地元住民が目的をもって集う、モビリティとウォーカブル(歩行者)が交差する街づくり。木下さんも参画し、岩手県の紫波町に公民連携によって誕生した複合商業施設「オガール」がその好例だ。

「駅前の町有地だった場所に、多目的に使える芝生の広場をつくり、両脇に商店が入居する建物を建設、その外側には計500台以上を収容する駐車場を完備しました。半径30㎞の住民がクルマでやってきて、徒歩で食事や買い物したり、ピクニックをしたりと思い思いに過ごしています」

町役場や図書館などの公共施設と民間の飲食店が、同じ敷地内に軒を連ねる。官民が連携することで新しい賑わいの場所が生まれた。「オガールにはいまでは年間100万人もの方が訪れます。このようなモデルが今後、全国の地方都市で広がっていくと確信しています」

木下 斉 社会起業家、まちづくり専門家、エリア・イノベーション・アライアンス代表理事

1982年、東京都生まれ。高校1年生で参加した早稲田商店会の活性化事業をきっかけに、地域再生の専門家として研究、活動を行う。2009年、エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の地方再生・街づくりプロジェクトに携わる。内閣官房地域活性化伝道師。

ナカムラケンタ シゴトヒト代表

“自分のものさし”で測った、
多様な働き方が増えていく。

  • さまざまな分野で活躍するゲストを招くトークイベント「しごとバー」の様子。写真の回はプロダクトデザイナー柴田文江さんとの企画で動画配信を行った。
  • 「日本仕事百貨」のトップページ。よくある求人サイトのように企業や募集の紹介ではなく、その会社で働く「人」がコンテンツのメイン。社員の働き方や生き方を通してその仕事や会社の魅力が伝わるため、転職活動中ではない読者も多い。

コロナ禍によりテレワークが浸透し、働き方に変化が訪れている。働く人をフィーチャーし、その仕事の魅力を伝える求人サイト「日本仕事百貨」の創設者、ナカムラケンタさんに、少し先の未来の「ワークスタイル」を聞いた。

「私たちはよく『生きるように働く』と言いますが、それはオンもオフも、すべてが自分の時間であるという前向きな意識のこと。日本仕事百貨では、そんな働き方をしている人たちを紹介しています」

2008年の創業からこの夏で満12年。当時と現在では、ユーザーが企業へ求める価値が変わってきているという。

「創業当時は企業名をはじめ、給与や福利厚生などが興味の大半。しかし、リーマンショックや東日本大震災など、未曾有の危機を契機にユーザーの意識に変化が表れました。それは、社名や待遇面以上に『自分が本当にやりたいことはなにか』という本質的な問いかけが注目されていること。コロナ禍にあるいま、さらにその傾向に向かうでしょう」

難解な問いだが、日本仕事百貨で紹介した人の働き方や人生を垣間見ることで、自らの可能性を見出すこともできる。

「必要なのは他人のものさしではなく、自分のものさしで仕事や会社を測ること。自分にとってどんな働き方が心地よく感じるのか。そこを掘り下げてみてはどうでしょう」

仕事と働き方の多様化は、今後も加速していくに違いない。

ナカムラケンタ シゴトヒト代表

1979年、東京都生まれ。2008年に「日本仕事百貨」を設立。東京・清澄白河「リトルトーキョー」「しごとバー」監修。誰もが映画を上映できる仕組み「popcorn」共同代表。今年、事業継承プロジェクト「BIZIONARY」スタート。

村松亮太郎 アーティスト、ネイキッド代表

デジタル技術が進化しても、
感動の本質は変わらない。

  • 生命の起源であり、生態系を司る要素のひとつである「海の神秘」をコンセプトに、海の知育やSDGsに繋げるクリエイティブプロジェクトのイメージ図。海洋研究開発機構(JAMSTEC)とのコラボも発表。
  • AIが融合した次世代アーティスト「ルーシー(LUCY)」のイメージ。現在、エイベックスとプロジェクトが進行中。

昨今、身近になってきたAI(人工知能)やVR(仮想現実)などのデジタル技術。その進化は、人間のコミュニケーションにいかなる変化を及ぼすのか。東京駅壁面に美しいデジタル映像を描き出した、国内におけるプロジェクションマッピングの第一人者、クリエイターの村松亮太郎さんに少し先の未来の「コミュニケーション」について聞いた。

「僕にとってデジタルはあくまで手段です。僕が大切にしているのは“リアル”であること。東京駅や新江ノ島水族館という現実に存在する場所に映像を投影し、その会場に実際に足を運んだ何十万人もの方々が喜んでくれた。これはメディアでは伝わらない、リアルな体験だからこそ生まれた感動です」

映画であれMVであれ、もちろんプロジェクションマッピングであれ、作品を制作する際、常に村松さんが心がけている言葉がある。それが“タッチ マイ ハート”だ。

「スマートフォンでは何万もの曲を気軽に聴くことができますが、僕にとっては時間をかけて揃えたヴィンテージオーディオで聴く1曲のほうが価値がある。それが“タッチ マイ ハート”であり、人の心を震わせること。デジタル技術が進化し続けても、人を感動させたり心を通じ合わせたりするコミュニケーションの本質は、なにも変わらないと思います」

村松さんは、これからも先進のデジタル技術を駆使して、リアルな“タッチ マイ ハート”を追求し続ける。

村松亮太郎 アーティスト、ネイキッド代表

デジタルアートを中心に活躍。1997年にクリエイティブカンパニー「ネイキッド」を設立。2012年の『TOKYO HIKARI VISION』を皮切りに、国内外のあらゆる空間で幻想的かつ上質な映像作品を上映。いずれも高い評価を得る。

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