毎年やってくる「母の日」。恒例行事だけになにを贈ればいいか、悩ましいもの。だが、まもなくやってくる今年の母の日はおそらく、直接会ってモノを贈るのは難しいかもしれない。だからこそ、気持ちを込めてプレゼントしたい。
ポイントはどういった気持ちを込めるか、という点に尽きる。母親は朝から晩まで毎日、外でも家でも働き続けているのだから、家事に役立つものだったり、あるいはひと時でもそこから離れることができて、骨を休めたり、羽を伸ばせるようなものを贈ってみるのはいかがだろう。
ありふれたものにはしたくない。美しいもの、見るだけで癒されるものがいい。そこは、美大出身者としては譲れない。今回はそんなことを念頭において、本気でセレクトしてみた。いまだに悩んでいる方、いつもの花束にプラスアルファを加えたいという方の参考になれば幸いだ。
01. エルメスのテーブルウェア、02. ティファニーのアクセサリー
01. エルメスのテーブルウェア、02. ティファニーのアクセサリー
心も躍る、楽園気分へと誘うテーブルウェア
「食器は料理の着物である」という魯山人の有名な言葉がある通り、テーブルウェアによって料理、食卓の雰囲気は劇的に変わる。日常的に使用するものはシンプルなものがいいかもしれないが、母の日のプレゼントなら、とっておきの一日のために使ってほしい食器を選びたい。
エルメスが1984年から展開しているテーブルウェアに新たに加わったシリーズ「パシフォリア」は、南国の楽園気分へと誘ってくれる、トロピカルな華やかさをもつ。棕櫚(しゅろ)の葉、フクシアの花、パッションフルーツ……。彩り豊かな植物たちが皿の上、カップの中で踊るように写実的に描かれており、光が当たると煌めく縁取りのゴールドは太陽を現しているのだという。
この繊細なアートワークを手がけたのは、ナタリー・ロラン=ユッケルというアーティスト。エルメスのものづくりにおける探求の結晶に、心も躍ること請け合いだ。
「追想」「平和」の意を込め、特別なアクセサリーを。
母の日のプレゼントとして、ファッション小物というのはおそらく、花束の次に頭に浮かんでくる候補だろう。ただ、数多あるなかで、決め手となるものはなかなか見つけ辛い。
そこでお薦めなのがこちら。1990年代のティファニーを代表するデザイナー、エルサ・ペレッティ™が手がけた「アマポーラ ブローチ」。名作の呼び声高いアクセサリーだ。
弓のように緩やかなカーブを描くメタル、その先には赤いシルクが花びらのように飾られている。モチーフとなっているのは春の訪れとともに咲くポピーで、細い茎で大きな花びらを支える実際の花同様に、フェミニンな造形ながら佇まいは凛々しい。そんなアマポーラ ブローチにスモールサイズが誕生し、2020年の母の日に合わせて日本で先行発売された。
ポピーの花言葉には「追想」や「平和」が挙げられるという。いまだからこそ、そんなメッセージを込めたプレゼントを贈りたい。
03. マッツ・グスタフソンの画集、04. マルニの風呂敷
一時でも羽を休めてほしいという願いを込めて。
1951年にスウェーデンで生まれた画家・イラストレーターのマッツ・グスタフソンは、70年代に米ニューヨークに移ってから『ヴォーグ』『ハーパーズ バザー』『ヴィジョネア』といった名高いファッション雑誌や、数々のファッションブランドのイラストやヴィジュアルを担当。着々と華々しいキャリアを積んでいき、まさにモード界のカリスマ的な存在となった。
その後は、自身のキャリアにいったん背を向けるように自然やヌードをモチーフにし、より本質的なものに寄り添いながら、それらがもつ抽象性を引き出す絵を手がけるようになる。都会の喧騒のなかを闊歩する人々とは真逆ともいえる、羽を閉じて湖を優雅に漂う白鳥の姿をいくつもパステル画で描いた、この「SWAN」のシリーズもそのひとつだ。おそらくグスタフソンは、その姿を見て癒されていたに違いない。
毎日、朝から晩まで働き続けてきたお母さんに、一時でも白鳥のように羽を休めてほしいという意味を込めて、この画集を贈りたい。
スカーフやテーブルクロスとしても使える万能な一枚。
レジ袋の有料化が着々と進むいま、環境への負荷を考慮し、買い物袋を携帯することは欠かせないマナーになってきている。既にさまざまなデザインのエコバッグが登場していることは周知の通りだが、より”飾り気”があって汎用性の高いものならなお愛着も湧くだろう。
その選択肢に加えたいのが風呂敷である。なかでも、マルニが展開している「FUROSHIKI SCARF」は、とても可愛らしいパターンの柄がズラリ。その名の通り、羽織ったり頭や首に巻くスカーフとしても、はたまた大判故にテーブルクロスとしても活かせる、万能な一枚だ。FUROSHIKI SCARFの染色や地貼り、縫製など、製造のすべてを行ったのは京友禅の名門「千總」の中でクリエイティブ事業を担当している「S.NISHIMURA」。実際に触れてみると、色数が多いのにもかかわらずムラはなく、発色もよく、薄手で軽快ながらしっかりとハリがあり、見事なバランスでつくられていることがわかる。
FUROSHIKI SCARFと同じつくりで約半分くらいのサイズの「BANDANA」も用意されているので、大小で組み合わせて贈るのもいいだろう。
05. 小川一真の写真、06. ヴィム・ヴェンダース総指揮の映像作品
ずっと飾っていられる、古の美しい花写真。
残念ながら、生花は長くはもたない。せっかくなら長い間、飾ってもらったり使ってもらえるものを贈りたいと考える人は多いはずだ。
こちらは千円札に描かれた夏目漱石像の原案となった肖像写真の撮影者としても知られる、写真師兼印刷業者の小川一真による花の写真作品。コロタイプと呼ばれる顔料を使った技法でプリントされており、木版のように色を一つひとつ重ねながら刷っているため、絵筆のタッチのような立体的かつ独特な質感になっているのだという。
本作が撮影されたのは、小川が活躍していた日本の写真黎明期にあたる1800年代の末期。長い時を経ても、美しさを保ったまま復元プリントできる点こそが写真の大きな利点だと改めて気づかされる。
このあやめのほかに、菊や牡丹、つつじや椿などもラインアップされている。由来や花言葉で選んでみるといいだろう。
世界の6つの建物が語り部を務める、抒情的なドキュメンタリー
ある特定の土地でしか撮れない映像を観ることは、旅情を感じさせる。ロードムービー、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手である映画監督、ヴィム・ヴェンダース総指揮のもとで2014年に製作された『もしも建物が話せたら』(日本公開は16年)は、世界の建物そのものが一人称の語り部を務めるというユニークな設定の抒情的なドキュメンタリーだ。
登場する建物はアメリカのソーク研究所、ドイツのベルリン・フィルハーモニー、フランスのポンピドゥー・センターなど6つ。それぞれを“主役”にヴェンダースはじめ、ロバート・レッドフォード、ミハエル・グラウガーらが監督を担当し、独自の表現方法で映像化している。
建物は立っている場所の歴史、文化、社会を物語る。すべてを回って実際に確かめてもらうことができれば理想的だが、さすがにそれは難しい。それならば、自宅にいながらにして、語り部しか知らないことに目を向け、耳を傾ける機会を贈ろう。
小川一真の写真の詳細はこちらで。
07. 渡辺教具製作所の地球儀、08. AND VITAL MATERIALのギフトセット、09. 東京香堂の香木
nendoがデザインした、夢見る道具の原点。
このご時世、旅行をプレゼントすることは難しいが、いまのうちに計画を立てたり、次の旅先に想いを馳せたりすることはしてもいいだろう。いまとなっては、インターネット上でバーチャルな旅のようなものができてしまう。しかし、それで済んでしまっては夢がない。
インターネットがまだ発達していない時代に幼少期を過ごした人々の多くは、家にあった地球儀で、地球が丸いことや世界の地理を教わったはずだ。当時のお礼という意味を込め、夢見る道具の原点である地球儀をプレゼントしてみるのはどうだろう。
地球儀および星座早見表の、日本では数少ない老舗メーカーである渡辺教具製作所がつくる製品は、地形描写の精度の高さでよく知られている。今回紹介するものは、そのクオリティに感銘を受けたというデザインオフィス「nendo」が台座のデザインを手がけたもの。ちなみに商品名は「太陽のまわりで輝く光の輪」を意味する。
習慣と洗面所の風景を変える、充実のボックスセット
なにげない日常がちょっと変わるだけでも、それは新たなものを発見できる旅のようなイベントになる。ボディからホームまで、さまざまなケアアイテムを展開する「VITAL MATERIAL」から派生した、天然由来の原料でつくられたオーラルケア用品に特化しているブランド「AND VITAL MATERIAL」は、旅をそのように身近なものとして捉えているという。つまり、プレゼントにすれば、贈られた相手にとっては新たな発見の機会となるわけだ。
たとえば毎日使う歯磨き粉だけを自ら買い替えてみることはあるかもしれないが、洗面回りのすべてのアイテムを一気に刷新するということは、そうはない。このAND VITAL MATERIALのボックスセットは、オーラルケア関連の用品がほぼ網羅されており、さらにはハンド/ボディを兼用できるソープが含まれた充実した内容になっているため、毎日の習慣に伴うムードがガラリと違ってくるはず。シンプルでマスキュリンなパッケージデザインは、洗面所の風景をも変えてくれるだろう。
リラックスするための新たな習慣も一緒にプレゼント
母の日には香りを贈る、という人も少なくないだろう。といっても、キャンドルやルームスプレーでは少々ありきたり。せっかくなら、あまり選ぶ機会のない、そして自然由来のものを選びたい。
インドなどの東南アジア諸国が起源とされる香木は、その名の通り、天然の木がもつ特有の香りを楽しみ、鎮静を促すものだ。短い棒状の木に火をともすタイプは比較的よく見かけると思うのだが、1935年に創業した線香屋がルーツである「東京香堂」のそれは、少しだけ趣が変わっている。
まず、耐熱ガラスの器に灰を入れ、その中心に火をつけた炭を置く。そこに付属のさじを使って細かく刻まれた香木のチップを慎重に落とすと、煙とともに独特な香りが一気に立ち上がってくる。このギフトセットに入っている香木は、インドのマイソール地方で採取されたという白檀と東南アジア諸国などに生育するジンチョウゲ科の沈香で、それぞれしっかりとした香りの個性をもつ。
リラックスするための新たな習慣も一緒にプレゼントできるところがポイントだ。
※紹介した商品は在庫・注文・配送状況により入手までに時間がかかる場合があります。