リシャール・ミルの腕時計は数千万円から億を超える超高額で知られるが、航空宇宙産業で開発された先端素材やハイテクを惜しみなく導入。F1のレーシングカーと同じく、価格を度外視して究極の品質と性能を目指した結果といえる。それによって、トゥールビヨンをはじめとするデリケートな超複雑機械式腕時計が、テニスやゴルフ、カーレースといった過酷な条件でも実用できるものとなった。高級腕時計といえば貴金属による重量感がひとつの象徴だったが、これも逆転。腕に負担を感じさせない軽量性と頑丈な耐久性、そして安定した高精度がブランドの本質的な特長なのである。
そんなリシャール・ミルの新作は、完全自社開発の自動巻きトゥールビヨンを搭載したスケルトンモデル「RM 74-02 オートマティック トゥールビヨン 」。マットブラックなカーボンの質感の中で、木肌のように表出した18Kイエローゴールドがスタイリッシュな艶と気品を感じさせる。このベゼルのベースとなったのはカーボンTPT。炭素の薄膜繊維を平行に何層も織り込んだリシャール・ミル独自のハイテク素材だが、これに金箔の層を加えて、高圧で過熱密着させたゴールドカーボンTPTを数年がかりで新開発したという。いわばミルフィーユを斜めにカットしたといえそうだが、ミクロン単位の微小世界であり、ゴールドは化学反応しにくい素材であることから、炭素との融合には苦労を重ねたようだ。
スレンダーな曲線のスケルトンに仕上げられた地板は、赤味のある18Kレッドゴールド。その一方で、リューズは18Kイエローゴールドの縁取りがアクセント。指で操作しやすい大型であり、実用性に対するブランドのこだわりが感じられる。ミドルケースには18Kレッドゴールドを採用。質感を強調するサテン地に加えて、ピラー部分にポリッシュの鏡面仕上げを施すことで強固な構造と立体感を強調している。カーボンTPTとゴールドのマリアージュというだけでなく、2種類のゴールドカラーの共演と表現できるかもしれない。
6時位置で1分間に1回転。秒のインジケーターも兼ねるトゥールビヨンが、華麗なアートオブジェとして腕時計の鼓動を見せてくれるが、主ゼンマイを収納したバレル(香箱)から動力を伝達する輪列には特殊な歯型のインボリュート歯車を採用。エネルギーロスを減少しており、主ゼンマイの周期的な貼り付き現象を改善する高速回転バレルと合わせて、安定した精度を持続する約50時間のパワーリザーブを実現している。
そのほか、グレード5のチタン製ビスなど細かな特長を紹介していくとキリがないが、ごく簡単にまとめれば、ラグジュアリー感をスタイリッシュにグレードアップしたハイテク・スポーツコンプリケーションといえるのではないだろうか。
問い合わせ先/リシャールミルジャパン TEL: 03-5511-1555