潔いスクエアに秘められた、無限の拡張性。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    潔いスクエアに秘められた、無限の拡張性。

    H69.9×W112.6×D45.3mmという、世界最小のフルサイズミラーレスを実現。価格未定。今秋発売予定。

    ほしい! 最近、これほど強烈に物欲が湧いたカメラは、他にない。シンプルな箱形四角が決然としている。実に手に適切な大きさ、サイズではないか。本体が幅広なので、握りやすい。このコンパクトさの中に2460万画素の35mmフルサイズセンサーが格納され、しかもミラーレスのレンズ交換式一眼なのだ。
    本機のモットーは「世界最軽量のフルサイズミラーレス。その中に高画質を詰め込む」。実に爽快な決意ではないか。小型・軽量化は日本メーカーの得意芸だが、最近は産業界を見渡しても、堂々と宣言するところは稀だ。シグマは古典的ともいえる日本製品の美質をいま体現した。
    本機の秘密はモデルネーム「f p」に隠されている。イタリア語で「fortissimo pianissimo」。つまり「強」と「弱」だ。その意味するところは深い。普通は並び立たないふたつの対照コンセプトの併存を「fortissimo pianissimo」に込めた。具体的には「最小・最軽量にしてフルサイズセンサー内蔵の高画質」「最上の静止画と最上の動画」「形の簡潔さと高い拡張性」……だ。
    最小・最軽量を実現するために、シャッター機構まで省き、電子シャッターにした。高速連写・高速シャッタースピードが実現し、静止画では3コマ、動画では2コマを異なる露出で1度に撮影して合成するHDR機能など、数々のメリットが得られた。静止画も動画も同時に最上映像を目指した。数多くのシグマ・シネレンズ(最近、映画『トップガン』最新作の撮影で同レンズの使用が話題に)が装着できる。
    「形の簡潔さと高い拡張性」は、本体形に秘密がある。ミニマルな四角なので、そこに、さまざまな用途のアクセサリー(ハンドグリップ、ホットシューユニットなど)が装着でき、驚くほどの機能が拡張できる。小さな形だからこそ、拡張可能性が大きいのだ。
    操作性も実にいい。本体天面には静止画と動画の切り替え、録画、電源の各スイッチ、ボタンが大きく独立して配置され、直感的に操作できる。特に素晴らしいのが、カラーモード選択。いまやデジカメの標準機能だが、メニューボタンを何回も操作しないと、選択できないものが多い。fpでは大きなカラーボタンがモニターの下にあり、スタンダード、ヴィヴィッド、ポートレート、風景……という12のモードを積極的に使いたくなる。
    画質では、ボケの美しさに感心した。fpのために開発したLマウントの45㎜ F2・8レンズは、絞り開放では手前のインフォーカスのオブジェクトと背景のアウトフォーカス部の対比が美しく、後方に行くにしたがってボケが大きくなる。
    取材を終えて、ほしい気持ちが倍増した。これは大傑作だ。

    専用設計の45mmのほか、35mm F1・2など明るいレンズも登場。既存のLマウントレンズが幅広く装着可能。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載