世界地図でひと目でわかる、ウイスキー “五大聖地”の歴史。

  • 文:西田嘉孝
  • イラスト(地図):阿部伸二
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あらゆる国でウイスキーが造られるようになったからこそ、知っておきたい5つの“聖地”。その歴史やおもな蒸溜所を紹介。

中世の時代に中東からヨーロッパへと伝わった蒸溜酒の製法が、アイルランドやスコットランドに伝わり、ぶどう栽培に適さないこれらの地で、大麦麦芽から造られたビールが蒸溜器にかけられた。そうして北の大地で生まれた蒸溜酒は、やがてスコットランドの密造者たちが発見した木樽熟成の技術によって、現在の琥珀色をしたウイスキーとして完成を遂げる。その後、新大陸へと入植した移民たちによって、アメリカやカナダへと伝播。18世紀末には、それぞれの地で個性的なウイスキーが造られるようになっていく。

そして20世紀の初頭、日本人青年・竹鶴政孝がスコットランドへと渡り、伝統的なスコッチの製法を手に帰国。1923年、五大ウイスキー最後の生産国となる日本でも、本格的なウイスキー造りが開始された。

5つの生産国のなかでも盟主たる資格をもつのは、イギリス北部のスコットランドだ。北海道ほどの国土では120以上の蒸溜所が稼働。スペイ川流域の狭い範囲に蒸溜所が密集するスペイサイドを筆頭に、イングランドに隣接する南のローランド、スペイサイド以外の北方ハイランド、キンタイア半島のキャンベルタウン、そしてアイラ島とその他の島々(アイランズ)といった各エリアで、それぞれに個性を備えたスコッチウイスキーが造られる。

さらにはイギリス連合王国の一部である北アイルランドと、アイルランド共和国で造られるアイリッシュウイスキー。おもにケンタッキーで造られるバーボンウイスキーやテネシー州産のテネシーウイスキーで知られるアメリカンウイスキー。そして世界で最も飲みやすい酒質をもつカナディアンウイスキーに、スコッチの伝統に日本人の繊細な感性を加えることで発展したジャパニーズウイスキー。なぜこれらが「五大ウイスキー」と呼ばれるかといえば、その歴史のみならず、品質や生産量において他の地域のウイスキーを凌駕してきたからだ。

ヨーロッパやアジア、アフリカ、中東まで、いまやあらゆる国で造られるウイスキー。そのバックボーンには、往々にして伝統的なウイスキー造りのエッセンスが見られる。五大ウイスキーの特徴を押さえておくことは、そうした新顔ウイスキーを理解することにもつながるだろう。


スコッチウイスキー

おもに、大麦麦芽を原料に伝統の銅製ポットスチルで2回蒸溜されるモルトウイスキーと、連続式蒸溜機で造られるグレーンウイスキー、それらを混ぜたブレンデッドウイスキーを生産。各地や島々での風土を活かしたウイスキー造りが行われる。

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アイリッシュウイスキー

ノンピート麦芽の使用や3回蒸溜など、スコッチと一線を画すために考案された独自の製法が特徴。近年では30を超える蒸溜所が新たに稼働し、スコッチと同様の製法で造られるシングルモルトのリリースも増えている。

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ジャパニーズウイスキー

スコッチの伝統に加え、発酵工程でのこだわりや日本固有のオークであるミズナラ樽の使用、各蒸溜所での多彩な原酒の造り分けなど、100年に満たない歴史の中で独自に発展。近年、世界で最も評価を高めたウイスキーだ。

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アメリカンウイスキー

トウモロコシを主原料に、新樽での熟成が義務づけられたバーボンウイスキーと、テネシー州で造られるテネシーウイスキーが、その筆頭格。近年では1000以上のクラフト蒸溜所が稼働し、革新的なウイスキーも誕生している。

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カナディアンウイスキー

ライ麦やトウモロコシ、大麦麦芽を原料とする香味豊かなフレーバリングウイスキーと、トウモロコシを主原料とするベースウイスキーをブレンドしたカナディアンブレンデッドウイスキーが主流。ライトなフレーバーが特徴だ。

この記事は、2019年 Pen 10/15号「いま飲むべき一本を探して、ウイスキーをめぐる旅。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。