ゲームデザイナー佐々木隼が「流行るかも」と評価した、「金魚すくいギョウザ」とは?
アートディレクターの古谷萌、コピーライターの鳥巣智行、菓子作家の土谷みお、建築家の能作淳平が、料理人とは異なる視点から新しい餃子づくりに取り組む「トゥギョウザー」。4人が毎回、さまざまなゲストと会話しながら、これまでにない餃子をつくる。そんな活動です。
8回目のゲストは、ゲームデザイナーの佐々木隼。カードゲームやボードゲームといったアナログゲームや、アプリなどのデジタルゲームを制作するオインクゲームズの代表でもあります。この日は、オインクゲームズのグラフィックデザイナー、出水田紘子も参加。ゲストとトゥギョウザーのメンバーによる、こんな会話からスタートしました。
古谷 以前、「ゲームマーケット」というイベントで、オインクゲームズのブースを見て驚愕したのを覚えています。アナログゲームのパッケージデザインもキャッチコピーも、すべてが洗練されていて、まるでゲーム業界のアップル。海底に沈んだ財宝を探しに行く「海底探険」というアナログゲームは、海底に潜っている間は酸素の残量が減っていくというルールがあるので、プレイヤー同士が微妙に協力しないといけないところが面白い。アナログゲームは、ルールや着眼点次第でおもしろいものになって、個人のアイデアベースでリリースできるところもいいですよね。
佐々木 去年、個人でゲームをつくる機運が社内でも高まって、スタッフがそれぞれのブースをゲームマーケットに出展していました。オインクゲームズという社名を出さないようにして、売上で勝負してましたね。
鳥巣 佐々木さんは、どんな経緯でゲームを作るようになったんですか。
佐々木 IAMASという専門学校を出て、最初はフリーランスでコマ撮りアニメーションをつくっていました。今も、Eテレ『みいつけた!』の『いすのまちのコッシー』のコマ撮りアニメをつくったりしています。小さい頃からゲーム好きで、それを公言していたら、知り合いに「手伝ってみる?」と誘われて、デジタルゲーム制作に携わるようになりました。
古谷 アナログゲームを作るようになったのは?
佐々木 単純にアナログゲームにハマって、2006年くらいから「モノポリー」とか「カタン」をやっていたんですね。いろんなアナログゲームをやっているうちに、自分でつくりたくなったのがきっかけです。アナログゲームって、「10秒以内に出さないとダメ」とかその場だけのローカルルールをつくったり、ルールをアレンジしたり、ルールに触れたり考える機会も多いので、プレイヤーが作り手になりやすいと思います。
能作 ルールづくりに入り込めるのは、アナログならではですよね。
佐々木 僕が作った「小早川」というゲームは、関ヶ原の戦いで徳川家康側に寝返った小早川秀秋という大名がモチーフ。戦場に、どっちにつくかわらない勢力がいるのがおもしろいと思いました。カードを1枚でやるポーカーみたいなゲームで、最初にプレイヤーに1枚ずつカードを配って、最終的には一番大きい数字のカードを持っている人が勝ち。でも、中央にカードが置いてあって、これが小早川。もっとも小さい数字のカードを持っている人の手札に、この数字をプラスしたもので勝負が決まります。途中、手札を見て、勝てないと思えば勝負から降りることもできます。
土谷 これって、2人でもできますか?
佐々木 3人からのほうが楽しいですね。それにしても、今このゲームを作ったら、もっとマイルドなパッケージデザインにしたと思います。
出水田 丸くなっちゃいましたね。
鳥巣 今日のテーマは、「ゲームになるギョウザ」です。
佐々木 「食」って、そもそもゲームっぽいですよね。焼肉店に行っても、肉を焼きすぎると失敗だし、何を注文するかというのも、「カルビみんな好きかな」とか、「自分以外にホルモン食べたい人いるのかな」とか、「野菜って食べます?」みたいにゲーム感があります。実際、焼肉をテーマにアナログゲームを作っている人もいます。
ここで、4人がそれぞれ、あらかじめ考えてきたアイデアを発表。ゲストが最も気に入ったひとつを、みんなでつくって食べてみたいと思います。今回は、佐々木もアイデアを用意。まずは、古谷のアイデアから紹介していきます。
古谷 僕のアイデアは、「きょうさ。」です。餃子はみんなでつくると楽しいと言いつつも、実際にはつくる人つくらない人がいて、つくる時間をもっと楽しくできればと思いました。カードにそれぞれ「餃子の皮」や「春巻きの皮」、「ほうれん草」「パイナップル」といった具材が書かれていて、自分が引いたカードの具材を組み合わせて、いかに餃子っぽいものをつくるかというゲームです。
鳥巣 必要なさそうな具材があるのが、ゲームらしくていいですね。
古谷 必ずしも餃子の皮が手に入るとも限らないし、パイナップルを入れると大惨事になるかも。
佐々木 いいカードがそろっても、意外とおいしくならないという可能性もありますね。
続いて鳥巣のアイデアを。
鳥巣 食べ物を使ったゲームといえば、やっぱりポッキーゲームだと思うんですね。
土谷 なにそれ?
鳥巣 1本のポッキーを2人で両端から食べるやつ。
土谷 ああ、あれってゲームなんだ。
鳥巣 今回は、カードや道具を使わないで、餃子だけでゲームをできないかなと思って、「妬きギョウザ」を考えてきました。男女3対3くらいで、オリジナルの餃子の餡を持ち寄ってミックスして、「誰と誰のミックスがおいしかった」「私の方が相性がいい」とか、妬いたり妬かれたりするというものです。餡をミックスして、男女の相性を測ります。
能作 婚活パーティーみたいな。
土谷 鳥巣くんは婚活系のアイデアが多いよね。
鳥巣 エビと豚肉の餡は当然合うだろうし、辛い餡に、甘いものを入れた餡を合わせてみると、「なかなかいいコンビ」となって、仲良くなっていくようなイメージです。
能作のアイデアは?
能作 「ギョウザとシュウマイ」です。僕はゲームから罰ゲームを連想して、ゲームが終わった後に、負けたほうがギョウザを食べるようなものを考えてみました。
土谷 能作さん、シュウマイ好きだよね。
能作 そうかもしれないですね。まな板の上で、ギョウザとシュウマイでマルバツゲームをやって、負けた方が全部食べるというものです。
古谷 オセロでもいいですね。
能作 オセロだと、ギョウザとシュウマイを大量に用意しないといけないですね(笑)。
土谷のアイデアは「金魚すくいギョウザ」です。
土谷 コンソメスープに、金魚に見立てたギョウザを浮かべて、それをポイですくった数だけ食べられる、というもの。金魚すくいについて調べたら中国から伝わったという説があり、しかもギョウザは中国からやってきたものなので、その繋がりにも運命性を感じるアイデアです。
鳥巣 僕はスープ餃子が好きなんですけど、箸を使って食べるのはけっこう大変。これは、ゲームになると思います。
佐々木 お店で出てきたら楽めそうですね。
最後に、佐々木のアイデアを発表します。
佐々木 「ゲームになる」というテーマなので、これ自体にはルールが内包されていなくてもいいと思いました。食べていると、ルールを足したくなるようなものとして考えたのが、「ハウメニーギョウザ」。餡の中に、あられやピーナツが混ざっていて、数が一番多い人が勝ちとか、逆に多かったら負けとか、自由に楽しめる、「ゲームになるギョウザ」です。
鳥巣 方向性がちょっとずつ違って、どのアイデアもおもしろさがありますね。
出水田 全部食べてみたいですけど、一番見てみたいのは金魚すくいギョウザですね。
今回つくるのは、金魚すくいギョウザに決まりました。
今回使う餡は、豚ひき肉に塩コショウを振ったシンプルなもの。パプリカパウダーやトマトケチャップで赤く色付けした薄めの生地を手作りして、そこに餡を包んでいきます。金魚に見立てたギョウザができたら、あとは茹でて完成。ポイを手に、金魚すくいのようにギョウザをすくっていきます。
準備が整ったら、さっそく試してみます。ゲストの佐々木と出水田、トゥギョウザーのメンバーの順に、ひとりずつ、そーっとギョウザをすくっていきます。結果は、佐々木が2つ、出水田が最多の4つ。トゥギョウザーのメンバーも、ひとり2、3個はすくえたようです。さて、気になるその味は?
出水田 皮の生地とコンソメスープがマッチしておいしいです。つくっている最中は、正直どんな味になるかと心配でした。
鳥巣 おいしいですね。スープ餃子は今回が初。皮の厚みもちょうどいいです。
能作 皮が集まっているところも、手作りしたからか、おいしくできました。皮作りをすると、毎回学びがありますね。
古谷 味はけっこう普通だけど、ちょっと黄色味がかったスープの色と葉っぱ代わりに浮かべたパクチーが、あまり掃除してない水槽みたいで、リアリティあるなと思いました。金魚をモチーフにギョウザをつくるのも、今までない感じになりました。
佐々木 手作りの皮は、薄いのにもっちり。パプリカとケチャップ入りでおいしかったです。金魚みたいなギョウザを箸でつまん食べる行為に、背徳感というかスリルがあって。なのに、2つ目でもう慣れてしまった自分がいました。そんな自分の心の動きが、興味深いと思いました。
土谷 すくう時は生きもので、食べる時は食べものに頭の中で瞬時に変換されることが面白かったです。視覚的な金魚のイメージが強いので、食べて餃子の味がちゃんとすることに安心するのも新しい美味しさでした。
佐々木 金魚すくいという、食べる外側の楽しさを発掘できたのが新鮮。例えば、焼肉で、ひとりずつ肉を焼くターン制にしたらどうだろうと考えました。
そして最後に、今回のトゥギョウザーをそれぞれ振り返ってもらいました。
出水田 むちゃくちゃおもしろかったです。アイデアの発表から完成までの時間がめちゃ短いことや、買い出し中にみなさんが、「これがあったら絵的におもしろそう」と、仕上がりを想像しながら進めているところもすごかったです。
土谷 やってみると、想像していた以上にワクワク感がありました。金魚すくいというゲームのシンプルさがよい結果につながったと思います。
古谷 食べることにゲーム性を付加するというアイデアがよかったですね。これだけ盛り上がれる食べ物って、なかなかないように思います。
鳥巣 餃子に命が宿った感覚があって、それがまったく新しいギョウザ体験でした。食卓もゲームも、場を囲むのが共通点。「ゲームになるギョウザ」というテーマでやってみたら、食事や料理にもゲーム性があると、改めて気づかされました。
能作 僕は、最初にやった「小早川」がショッキング。ゲームの価値観がちょっと変わりました。ゲームって生活のいろんな所に入り込めるんだなと思いました。とりあえず、小早川を買ってみます。
佐々木 みなさんのアイデアがめちゃよくて、さすが。金魚すくいギョウザ専門店があったら、流行るかもしれません。それくらいおもしろかったです。