個性で勝負する銘柄から世界を舞台に戦えるクオリティまで。日本のスパークリングワインは、着々と実力をつけている。価格帯別に、注目の12本をピックアップした。
日本で造られるスパークリングワインには、大きく次のタイプがある。1.ワインにガスを注入して発泡性にする「ガス注入タイプ」、2.発酵途中の糖分が残った状態で瓶詰めして、引き続き瓶の中で発酵させて微発泡にする「瓶内一次発酵タイプ(メトード・アンセストラル)」、3.密閉タンクの中で発酵させることで発泡性にする「シャルマ方式」、4.一度発酵が終了したワインを瓶の中で再度発酵させる瓶内二次発酵タイプ(メトード・トラディショナル)。この手法はフランスのシャンパーニュ地方で行われるものと同じで、1.に比べると4.の方が手間も時間もかかり、価格も高くなる。
品種や製法、味わいなどバリエーションが豊富。アンダー2,500円で買える6本。
まずは多様化が著しい2500円以下のスパークリングワイン。今回取り上げた6本も品種や製法、味わいなどバリエーションが豊富。色についても白に加えて、ロゼ、赤、さらには薄にごりタイプまで多彩だ。ご紹介したワインは、瓶内一次発酵とガス注入タイプ。前者のタイプは、野生酵母のナチュラルワインも多い。一方、原料に使われるブドウはデラウェア、ナイアガラ、巨峰など、生食用のアメリカ系のブドウや交雑品種が多いが、いずれもコストパフォーマンスは抜群。普段づかいができるオススメのワインばかりだ。
陰干しした巨峰が、特別な果実感に。
色合いは、ややくもりのある薄茜色。レーズンの香り、泡立ちはかなり弱めで、舌先にピリッと感じる程度だ。豊かな旨味と熟れた果実感、そして酸とほんのわずかな苦味のバランスが絶妙に口の中で広がる。のど越しで感じる果実のニュアンスが魅力的。東御市の名産の巨峰を2週間から1カ月間陰干ししてからワインに仕込んでいる。瓶内一次発酵タイプ。
のどの渇きを癒す、キュートな甘酸っぱさ。
穏やかな泡で、透明感のあるルビー色が美しいロゼ。ブルーベリーヨーグルトとカシスのような香りが溶け合う。口に含むとボリューム感のある果実味が豊かな酸とバランスしていて、キュートな味わい。ヤマソービニオンはヤマブドウとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配種。日本版キールロワイヤルのようだ。ガス注入タイプ。
冷涼な気候から生まれる、創立以来、人気の味。
キャンディやマスカットのような香りがとても豊か。香りの印象に反して味わいはドライで酸に下支えされた果実味が小気味よい。キリッと爽快。あと口にほのかに苦味が残って味わいを引き締める。2009年、ワイナリーの設立当初からつくり続けられている銘柄。ミュラー・トゥルガウとケルナーでつくられたスパークリングもお薦め。瓶内一次発酵タイプ。
真夏の暑さを吹き飛ばす、クリーンさとフレッシュさ。
少し香ばしい香り、熟した桃のような香りに加えて、爽やかな青草の香りが立ち上ってくる。味わいではライムを思わせるわずかなほろ苦さが実に心地よい。夏の暑さを吹き飛ばしてくれるような爽快さ。oasisシリーズは手頃な価格で楽しめるミュゼ・ド・ヴァンのスパークリング版。ユニークな品種構成。ガス注入タイプ。
ランブルスコをイメージした、中甘口のすっきり味。
少し濃い目のルビー色。燻したようなスパイシーな香りとカシスフルーツの香り。泡立ちは穏やか。ほのかな甘さとともにアセロラのような香りが広がってくる。中甘口だが、微かな渋みがアクセント与えておりあと口はすっきりと切れる。スパイシーな料理とも。イタリアのランブルスコという酒をイメージしてつくられた。ガス注入タイプ。
パイナップル香が特徴の、薄にごり微発泡。
パイナップルを思わせる甘い香りとパンのような香りから、しだいに花のような香りが立ち上る。たっぷりとした果実味とほろ苦さのハーモニーが抜群で親しみやすい味。あと口にほのかな甘さと苦味が残るがスッキリとした切れ味だ。滋賀のヒトミワイナリーは「にごりワイン」に注力。スパークリングにもその姿勢は表れる。瓶内一次発酵タイプ。
本格派スパークリングワインが揃う、オーバー2500円の6本。
次に、3000円を切るお手頃価格から、日本のスパークリングワインのトップクラスと言えるものまで、オーバー2500円の6本をチョイス。この価格帯になると、フランスのシャンパーニュと同じ造り方の本格派スパークリングワイン(瓶内二次発酵タイプ)も増えてくる。熟成期間もぐっと長くなり、熟成10年というものまで揃う。熟成期間が長いほど価格はどうしても高くなるのはやむを得ない。ただしこの価格帯でも白に加えて、赤と濁りのロゼなどがあり、面白い。品種はシャルドネや甲州が主流だったが、最近では、ツヴァイゲルトやレンベルガーといった冷涼な気候の黒ブドウを使うものや、ソーヴィニヨンブランなど香りゆたかな白ブドウを使ったものも増えている。日本のスパークリングの特徴だ。
旨味と熟成感が際立つ、甲州スパークリング
色合いは濃い目のイエローで、泡立ちは細かく持続性がある。パンの耳のような香ばしい香り。まったりした味わいと旨味をほどよい酸が支えている。例年と比べ旨味と熟成感が印象的。澱との接触は1年間でその後の瓶熟で厚みが増している。機山洋酒工業は、約20年間のスパークリングワインづくりの実績をもつ。瓶内二次発酵タイプ。
日本固有種でつくる、個性派の1本。
やや濃いめで透明感のあるルビー色。わずかにイチゴを思わせる香りに少し焦げたニュアンスも感じる。泡立ちはかなりおとなしい。ベリー系の果実を感じさせるフレーバーのほどよい果実味が広がるが仕上がりはドライ。わずかな苦味があと口を引き締める。11月半ばまで収穫を引っ張って完熟したブドウでつくられた。瓶内一次発酵タイプ。
З年超の熟成が生み出す、旨味と熟成の奥深さ。
色合いはやや濃いめ。泡立ちはきめ細かやかで口当たりも優しい。香ばしさと燻したような香りが立ち上る。口に含むとすぐに旨味と熟成感が押し寄せてくる。日本ではこの品種の熟成スパークリングは珍しい。グラン・ヴォワイヤージユは大いなる旅路という意味で、つくり手のワインづくりそのものを銘柄で表している。瓶内二次発酵タイプ。
熟成期間の長さが生む、エレガントさと品格。
きめ細かい泡立ちが口中でふわっと広がり、とてもクリーミー。香ばしい香りが豊かに広がる。ドライな仕上がりで、クリーンなエレガントさが際立っている。同ワイナリーはスパークリングワインづくりには30年以上の実績をもつパイオニア。名前のヨシコは同ワイナリーの発展に尽くした武田良子(現当主の母)の名前である。瓶内二次発酵タイプ。
アンダー3000円で実現した、瓶内二次発酵の味。
わずかに濁った薄桃色。パンの耳のような香りとベリー系の果実の香りが溶け合う。穏やかだが細かく持続性のある泡立ち。果実味とともに旨味が感じられ、飲みごたえ十分。後味にベリー系の果実の風味が長く残って満足度が高い。自社農園産のブドウを古樽で樽発酵させたワインがベースワインとなっている。瓶内二次発酵タイプ。
日伊醸造家の新作は、余市のテロワールを実現。
薄い麦わら色。とても豊かな泡立ちで持続性がある。花のような香り、果実味、旨味、苦味が絶妙にバランスする。レジェント、レンベルガーなどの黒ブドウを使うことで、余市の冷涼な気候ならではのシャープな酸が厚みを添えている。イタリア人醸造家、リカルド・コタレッラと日本チームのこだわりの結晶で誕生したワイン。シャルマ方式タイプ。
こちらの記事は、2020年 Pen 7/1号「ニッポンの美酒。」特集より再編集した記事です。