兵庫県龍野の揖保川(いぼがわ)流域で室町時代につくられるようになった手延べそうめんは、江戸時代に産地化が進み、明治時代に「揖保乃糸」として商標登録された。その特徴は、11の工程を経てつくり上げる伝統製法。麺生地を縄状により合わせ、延ばす際にもよりをかけることでなめらかな舌触りとコシ、歯切れのよい食感が生まれ、ゆで延びしにくくなるという。
そんな揖保乃糸は、国内シェアの約4割を占めるほどポピュラーだ。だが、赤帯(上級品)・黒帯(特級品)・紫帯(よりつむぎ)といった商品ランクがあることはあまり知られていない。なぜならスーパーなどで見かける揖保乃糸は、ほとんどが「上級品」。上級品は全生産量の約80%を占める主力商品だ。
上質な小麦の風味と細さを誇る、揖保乃糸の傑作
上級品とそれ以外のそうめんの製造量に大きな差があるのは、組合によって決められた製造期間が種類ごとに異なるため。そうめんをより細く延ばすためには、温度と湿度が低く安定した気候条件と、高い技術が必要なため、「特級品」や「三神(さんしん)」の生産者は約420軒の中から組合が選抜指定している。特に三神は、数軒の生産者しかつくることができず、製造量はごくわずかだ。三神の細さは、上級品の細さが径0.7〜0.9㎜程度であるのに対し、径0.55~0.6㎜なのである。
組合によると、ランクは製造期間や細さ、原料の小麦によって決められている。熟練の職人がつくる三神には上質な小麦が使われるだけに、味わいは格別。なかでも熟成を経て風味を増した「古(ひね)もの」は、ひと口味わうと小麦の旨味がしっかりと感じられる。そうめんにはこんなに味があったのかと、きっと感動するはずだ。
喜多村
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※Pen2020年8/15号「夏の麺喰い。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。