ナチュールの伝道師が北海道の大地で造った、“ゲヴュルツ”のワイン
農会堂ブラン10Rワイナリー
日本でナチュラルなワイン造りが活発な土地はどこか? と尋ねられたら、私は迷うことなく北海道を挙げる。さらにこの動きの中心的な存在としてブルース・ガットラヴを挙げるだろう。彼は、北海道空知地方岩見沢市上幌で委託醸造を主たる目的としたワイナリー「10Rワイナリー」を立ち上げた。2012年のことだ。ここには北海道中から、ときには道外から、ナチュラルなワイン造りを学ぶために多くの者が訪れる。それどころか、1989年に来日して以来、彼は日本中の数え切れないほどの造り手たちに、ワインづくりを学ぶチャンスを提供し、惜しみなく多くの知識を分け与えてきた。
多くの造り手たちを育てる傍ら、ブルース自身も自らのワインも造っており、それらは「上幌ワイン」というブランド名で販売されている。そしてそのなかに「タイヤマン」というシリーズがある。
「ワイン造りを続けるうえで、私はいつも自由に新たなことにチャレンジしたいと思っています。新たな土地のブドウ、新たな品種、あるいは新たな醸造方法などへの挑戦です」とブルースは言う。
「1〜2年、試験的な仕込みを続けてみて上質なワインができることもわかり、原料ブドウも安定して手に入りそうだとわかったら、アイテムの仲間入りをさせる。またその年だけ、たまたま手に入ったブドウで仕込むこともあり、こうしたイレギュラーなワインもタイヤマンシリーズにしています」。これらのコンセプトに加えて、タイヤマンシリーズでは、低価格なワインにすることも狙っている。
たいていの場合、ブルースが委託醸造を受けている栽培農家から、試験的に育てているブドウを仕込んでほしい、あるいは余剰のブドウで何か造れないかといった話がきっかけとなる。この「農会堂ブラン」も空知地方の浦臼町の宇都宮綾則さんから、わずかに育てているゲヴュルツトラミナーの品種でワインを造れないかという相談をもちかけられて、挑戦することになった。
ゲヴュルツトラミナーはバラやライチの香りが豊かなことで知られているが、味わいに厚みを出すために、少しだけピノ・グリというブドウを加えた。造りではゲヴュルツの香りを活かすために、ブドウは破砕してそのまま一晩、外に置いた。10月ともなれば北海道の夜は8℃まで下がる。果皮と果汁をしばらく一緒にさせることで、ブドウの果皮からは匂いの素となる成分が果汁に溶け出していく。その後はステンレスタンクに移動させ、野生酵母によって発酵が始まるのを待った。瓶詰めまでは亜硫酸は瓶詰め時にわずかに添加されるのみだ。もちろん野生酵母に発酵を委ねるためには、選果は徹底的に行なった。少しでも見た目や匂いで気になるところがあるブドウはすべて取り除くなど、選果の徹底ぶりには目を見張る。
こうして出来あがったワイン。グラスに注ぐとまずはバラの香りが立ち上る。艶やかというより、なんとも上品で魅力的だ。味わいにはほどよい厚みもあるが、北海道らしい、涼やかさを感じさせる酸が心地よく、するすると飲める。ブルースが目指す、ジェントルでピュアなワインだ。
自社管理面積/2ヘクタール
栽培醸造家名/ブルース・ガットラヴ (栽培農家 宇都宮綾則)
品種と産地/ゲヴュルツトラミネール(北海道樺戸郡浦臼町)87%、ピノ・グリ(北海道余市町)13%
容量/750ml
価格/¥3,300(税込)
造り/除梗破砕後、外気温で一晩置いて(約8℃まで下がる)、スキンコンタクトを実施。バスケットプレスでプレス後、すぐにステンレスの発酵タンクに入れる。3〜4日後に野生酵母で発酵開始。途中でピノ・グリの果汁を加える。発酵期間4カ月間、ステンレスタンクに貯蔵。瓶詰め時に15ppm亜硫酸を加える。無ろ過。発酵助剤、酵素などの添加物は無使用。
栽培/宇都宮ヴィンヤードは2005年開園、開園。ただし、ゲヴュルツトラミネールの植栽は2014年。除草剤は撒かない。できるだけ農薬を減らしているが必要に応じて、殺虫剤、殺菌剤は使用。化学合成肥料は使わず、堆肥を使用。仕立ては、片側式コルドン。収穫は10月21日。
問い合せ先/10Rワイナリー
TEL:0126-33-2770
http://www.10rwinery.jp/
※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。