淡いバラ色が美しい、沁み入るおいしさのロゼ
セツナウタ2016登醸造
色合いは淡いバラ色。しかしその味わいは、オイリーで驚くほどしっかりしています。ラズベリーを思わせる果実味に、頬の内側を引き締めるわずかな渋み。そして、余韻に心地よく感じるほろ苦さ。長い、長い余韻……。優しく沁み入るおいしさに、思わず感嘆のため息が出てしまいます。
ワインの名前は「セツナウタ」。北海道余市町にある登(のぼり)醸造の小西史明さんが、ツヴァイゲルトという黒ブドウでつくりました。農業団体の職員だったという小西さん。東京にあるワインバーで飲んだ、自然派ワインの旗手とされるフランス・ロワール地方の、ティエリー・ピュズラの「トゥーレーヌ・ソーヴィニヨン」のおいしさに魅せられ、こんなワインがつくりたいという思いが募り、とうとう北海道に移住してブドウを育て始めてしまいました。
ワインづくりは、道内で活動するベテラン、ブルース・ガットラヴのもとで学びました。小西さんの頭の中には、トゥーレーヌ・ソーヴィニヨンがスタンダードとしてあったので、クリアできれいな、そして豊潤なものをつくることを目指したそうです。育てているブドウの大半が、黒ブドウのツヴァイゲルトだったため、色濃くならないよう、房のままでさっと搾っています。そして、果汁中の酵母が動き出し、自然に発酵が始まるのを待ちました。
「畑やブドウの木などに自生している‟野生酵母”で発酵させることにしたのは、最初はぼんやりとしたイメージからでした。さまざまな酵母がそれぞれの持ち味を出して酒をつくるという感じがよいと思いました」と正直に語る小西さん。「けれどその後、自身のつくりを通して、野生酵母の複雑性にますます惹かれるようになりました。飲み口のやわらかさも魅力でしたし、野生酵母にまつわるさまざまなマイナス面も、適切な処理で回避できることを学びました」。ともかく健全なブドウを得ること、果汁をとことんていねいに扱うこと、徹底的に蔵を清潔に保つこと……。シンプルなことばかりですが、これらがつくりの根幹を成しており、難しいことだといいます。さらに肝に銘じているのは「Everything matters(すべては影響する)」というガットラヴから教えてもらった言葉です。「どんな小さな手間でもワインの味わいに影響する、と考え、『エヴリシングマターズ、エヴリシングマターズ』とつぶやきながら、畑で蔵で、仕事をしています」。渾身のロゼワイン。一度飲んだら忘れられない1本です。
ワイナリー名/登醸造
自社畑面積/1.9ha
醸造家名/小西史明
品種と産地/ツヴァイゲルト(北海道後志地余市郡方余市町)
つくり/野生酵母で12カ月間、ゆるやかに発酵。総亜硫酸塩は40ppm。糖分や酸の添加なし。濾過なし。
容量/750ml
価格/¥2,700(税込)
問い合わせ先/登醸造
www.noborijozo.com
※ 「ワインは、自然派。」について
本連載では、ブドウの栽培からワインの醸造まで、できるだけ自然につくろうとしてできた自然派ワインやナチュラルワインを紹介していきます。「自然につくる」とは、どういうことでしょうか? この連載では、醸造に関しては、「人の介入を最小限にすること」としています。 発酵では、「仕込み、あるいは瓶詰め時に亜硫酸を添加しないこと」。あるいは「添加したとしても 極少量に限定していること、培養酵母は使わずに野生酵母に発酵を委ねること、添加物を加えないこと」。また、「糖分を加えたり、酸を調整したりはしないこと、清澄剤も使わず基本的には濾過も行わないこと」。これらを実践すること、と捉えています。栽培に関しては、化学合成農薬の不使用を前提としたいところですが、日本の気候条件下において、有機農業でワイン用ブドウを栽培するのは、現状では非常に困難であるため、時には最低限の農薬を使用せざるを得ない状況です 。また、原則として、除草剤や化学肥料は使わないことも前提です。こうしたワインづくりを実践しようとするのならば、それだけブドウは健全なものでなくてはならなくなり、醸造では細やかな心配りも欠かせなくなります。連載では、風土に敬意を払い、できるだけ自然にブドウを育て ワインをつくろうとするつくり手たちと、彼らのワインを紹介します。