いま、世界的なブームを呼んでいるオレンジワイン。白ワイン用ブドウを皮から種までまるごと発酵させてつくったもので、つまり白ブドウで赤ワインのようにつくったワインのことだ。色素、渋み、香りの素となる物質が溶け込んでおり、色の濃さはさまざまだが、いずれもほのかなオレンジ色をしている。白ワインにはない複雑さがあり、赤ワインのような渋みがわずかに感じられる味わいが特徴だ。2019年は、日本のワイナリーでもオレンジワインをつくり始めるところが増え、かなりレベルの高いものも発売されている。そこで今回は、初心者向けから通好みまで、注目したい日本のオレンジワインを厳選して紹介する。
1.「デラグリ オレンジワイン」――2,000円台で入門編にも最適なスパークリング
2.「QVEVRI 甕 ブラン」――イタリアやジョージアの手法に倣い、素焼きの甕で発酵。
3.「甲州オランジュ・グリ」――甲州ブドウを使い、驚きの飲みごたえ。
4.「甲州F.O.S.」――豊かな果実味のハーモニーが素晴らしい自然派。
5.「シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ 2018」――大手メーカーのノウハウがこの1本に。
2,000円台で入門編にも最適なスパークリング
わずかにグレーがかった薄紫色の小ぶりブドウ、デラウェアはオレンジワインに適した品種だ。ワインにするとパイナップルのような甘い香りがするのが特徴的で、果皮と一緒に発酵させることで、香りはさらに豊かになり、甘く感じさせる果実味とわずかな渋みの絶妙なハーモニーが生まれる。発泡性にすることでフレッシュさが強調されて、爽快な味わいが楽しめるためか、オレンジワインには実はスパークリングワインが多い。この「デラグリ」も、スパークリングのタイプ。初めて飲む人にも自信をもってお薦めできる飲みやすさだ。
茜色が美しく、優しい泡立ちとともに口中にオレンジピールの砂糖漬け、甘いパイナップルや熟したリンゴのような香りが広がってきて実に魅力的。甘く感じる果実味とたっぷりとした旨味、穏やかな渋みが溶け合っている。後口はスッキリしているが、余韻は長い。醸し期間は2週間だ。
このワインをつくったヒトミワイナリーの山田直輝さんはこう語る。「原料となったブドウ自体が糖も酸も豊かでおいしかった。その果実を生かし、果実の香りと旨味、そしてビターな味わいがバランスを失わないように心を砕きました」
価格も2,000円台前半と手頃で、アペリティフにもいい。ヒトミワイナリーは、毎年5~6種類のオレンジワインを出しているので、ぜひ他のアイテムも試してみてほしい。
イタリアやジョージアの手法に倣い、素焼きの甕で発酵。
オレンジワインの原点に立ち戻ったワインとも言えるのが、この「QVEVRI 甕 ブラン 」。名前の通り、甕(かめ)で発酵させたワインだ。北海道札幌市にあるさっぽろ藤野ワイナリーでつくられた。野生酵母で発酵させ、亜硫酸は無添加だ。
色はわずかにくすんだオレンジ。オレンジやカリンのフレーバーに混ざって、ほのかにアプリコットの香りが立ちのぼる。時間とともにさまざまに表情を変えるワインだ。わずかに渋みがあるが、伸びやかな酸が続いていく余韻がとても優しい。
ジョージアの手法に倣ってオレンジワインをつくり、一大ムーブメントを起こしたと言われるイタリア・フリウリ地方のつくり手、パオロ・ヴォトピーベッチ。彼の言葉にヒントを得て、当時ワイナリーの醸造担当だった浦本忠幸さんがつくり始めたのがこのワインだ。ミュラー・トゥルガウとケルナーの2品種のブドウを使用している。
「野生酵母による発酵は、樽を使うとうまくいくがステンレスタンクだとうまくいかない。しかし樽を使うと樽の風味が移ってしまう。発酵容器はなにがいいのか模索していた時でした」と浦本さん。「ちょうど北海道を訪ねていたヴォトピーベッチが、フリウリではクヴェヴリという素焼きの甕で発酵させていると教えてくれたのです」。甕は北海道の斜里窯で焼いたものだ。イタリアと日本の文化が融合して生まれた、日本のオレンジワインの可能性を示してくれる一本だ。
甲州ブドウを使い、驚きの飲みごたえ。
オレンジの色合いは今回の5本の中では最も穏やかだ。輝きのある黄金色に赤みがわずかにさした程度の色合いだ。それでも一口飲めば、従来の甲州ワインにはなかった飲みごたえに驚くに違いない。味わいに一体感があり、まったりとして口の中で旨味が広がる。
聞けばこのワインは、ワイナリーの若手の醸造家、茂手木大輔さんからの提案でつくられたとか。果皮とともに発酵させたキュヴェとやや強めに圧力をかけて搾った果汁でつくられたキュヴェをブレンドして、バランスのよい味わいに仕上げている。
「渋みが強めのオレンジワインではなく、甲州ブドウがもっている果皮の周りのよい香りや濃厚な味わいを素直にワインに表現しようとしました」とは工場長。確かにオレンジワインとしては、渋みも穏やかで口当たりはとてもなめらかな仕上がりだ。コストパフォーマンス抜群なので、見つけたら、ぜひ飲んでみてほしい。甲州ブドウの新たな魅力に気づくに違いない。
豊かな果実味のハーモニーが素晴らしい自然派。
オレンジワインをとことん極めたいという人にお薦めしたいのが、ココ・ファーム・ワイナリーの「甲州F.O.S.」だ。F.O.S.は、「ファーメンテッド・オン・スキンズの略。文字通り、「醸し発酵」というのがワインの名前になっている。
シャトー・メルシャンのグリ・ド・グリがリリースされた翌年、2004年に初リリースのこのワインは、グリ・ド・グリとともに、日本のオレンジワインとしては、草分け的な存在になる(厳密には、ココ・ファーム・ワイナリーが04年にリリースしたワインは名称が「ミスター・ブラウン」だった)。
また、このワインは野生酵母で発酵させており、さらに亜硫酸は添加せず、年によっては瓶詰め時のみに少量添加しただけだ。
「他のものは加えずに、ブドウだけでワインがつくりたかったんです。それに野生酵母で仕込んだほうが、味わいは複雑になる」と語るのはココ・ファーム・ワイナリーの柴田豊一郎さん。初リリース以来16年間このワインの仕込みに携わってきた。
特徴的なのは、一貫して感じられるオレンジピールを彷彿とさせる風味。八角などオリエンタルなスパイスの印象もある。ほどよい渋みとそれに負けない豊かな果実味のハーモニーは素晴らしい。口の中にさまざまな風味が幾重にも層になっているかのようだ。
大手メーカーのノウハウがこの1本に。
オレンジワインの魅力を存分に堪能できるのが、シャトー・メルシャンの「甲州グリ・ド・グリ」だ。意外に思うかもしれないが、大手メーカーであるシャトー・メルシャンは、16年間もこのグリ・ド・グリには醸し発酵でつくったキュヴェ(オレンジワインのようにつくったキュヴェ)がブレンドされてきた。当時は大きなチャレンジだったのは想像に難くない。
2016年までは、醸し発酵の期間を短くする傾向だったが、それ以降は、醸し期間を長くするという攻めに転じた。醸したキュヴェの割合も16年前に比べて増やした。このワインは醸し期間を約4週間もとっており、色素も十分に抽出されて、オレンジがかった茜色の仕上がりになっている。
それだけ長く果皮と果汁を接触させたにもかかわらず、渋みが浮いていることなど微塵もない。果実感、渋味、そして酸のバランスが絶妙で、とても味わい深い。果実香が豊かで複雑、リンゴの蜜煮、オレンジピールの風味も広がってきて、魅力的だ。そして飲み込んだ後にも、心地よい香りが長く続いていく。
「2015年からは、山梨県笛吹市のタンニンが丸い畑の甲州ブドウを使うようになっています」とチーフ・ワインメーカーの安蔵光弘さん。16年間のノウハウがあってこその味わいだ。ネギをたっぷり散らした鯛のかぶと蒸しなど、料理との相性も抜群だ。