ここ数年、特に日本のウイスキーシーンでひとつのトレンドとなっているワールドブレンデッドウイスキー。“ワールドブレンデッド”とはその名の通り、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアン、ジャパニーズの世界5大ウイスキーをはじめ、複数の国のモルトウイスキー原酒やグレーンウイスキー原酒を使ったブレンデッドウイスキーのことだ。今回は、クラフトウイスキーブームの火付け役から手に入りやすい大手ウイスキーメーカーの新製品、さらには新鋭蒸溜所のものまで、いま飲めるワールドブレンデッドを紹介。家飲みにもぴったりな、新ジャンルのウイスキーを楽しんでほしい。
1.「イチローズ モルト&グレーン ホワイトラベル」――世界初のワールドブレンデッド
2.「碧Ao」――重なり合い調和する5大ウイスキーの個性。
3. 「AMAHAGAN World Malt Edititon No.1」――新鋭蒸溜所の気概が詰まったブレンデッドモルト
本。4.「陸」――自由な発想で楽しみたい、普段使いに最適な一
「イチローズ モルト&グレーン ホワイトラベル」――世界初のワールドブレンデッド
ジャパニーズウイスキーは、他の5大ウイスキー生産国のように、自国での糖化や発酵、蒸留、熟成などが義務づけられていない上、生産量自体も少ない。そのため、海外から原酒を買い付けて自社のブレンデッドなどに使用するという手法が歴史的にとられてきた。とはいえ、日本では外国産ウイスキーの使用がラベルなどに明記されることはほぼなく、消費者に誤解を与えるケースはいまも多い。
そうしたジャパニーズウイスキーを取り巻く風潮に抗うように、日本で(おそらく世界でも)初めて“ワールドブレンデッド”を謳ったのがベンチャーウイスキー社の「イチローズ モルト&グレーン ホワイトラベル」だ。ボトル裏のラベルにロットナンバーとともに描かれるのは、5大ウイスキーの生産地を示す世界地図。自社の秩父蒸溜所を含む国内外のモルト原酒とグレーン原酒が使用されており、そのすべてが秩父蒸溜所での一定期間の熟成を経てブレンドされる。
ほのかに心地よい木の香りと、穏やかな酸味を伴う柑橘のアロマ。飲めばふくよかな麦やクリーミーな甘さとともに、複雑なスパイスのアクセントも感じることができる。コク深く飲み応えもあるのでストレートやロックで味わうのもいいが、ソーダ割りや水割り、冬はお湯割りと、多様な飲み方で楽しみたい。人気の「イチローズモルト」の入門編としても、お薦めの一本だ。
「碧Ao」 ――重なり合い調和する5大ウイスキーの個性。
世界で初めてワールドブレンデッドを謳ったのが「イチローズ モルト&グレーン ホワイトラベル」ならば、5大ウイスキーの自社蒸溜所産原酒のみを使用した世界初のウイスキーが、サントリーの「碧Ao」(アオ)だ。もちろんこれは、バーボンのジムビーム蒸溜所やアイリッシュウイスキーのクーリー蒸溜所などを所有するビーム社を2014年に買収し、世界5大ウイスキーのポートフォリオを実現したサントリーだからできること。
スコッチはハイランドの「アードモア」と「グレンギリー」、アイリッシュは「クーリー」、アメリカンは「ジムビーム」、カナディアンは「アルバータ」、そして日本は山崎と白州の両蒸溜所と、ほぼすべての構成原酒が明らかにされているのも珍しい。「1杯で世界5大ウイスキーの個性が楽しめる」というコンセプト通り、バーボンやアイリッシュウイスキーを思わせる穀物様の甘く華やかな香りに始まり、カナディアンウイスキーの軽やかさ、ジャパニーズウイスキーの濃密な甘さと複雑さ、そしてスコッチウイスキー由来の心地よくスモーキーな余韻まで、5大ウイスキーの個性を旅するように楽しめる。
ストレートから少量ずつ水や氷を加え、変化してゆく香りや味わいを堪能するもよし、ハイボールをはじめさまざまな飲み方で楽しむもよし。その他にも、構成原酒となっている各国のウイスキーと比較して味わってみるなど、ウイスキーの楽しみ方を無限に広げてくれる一本だ。
「AMAHAGAN World Malt Edition No.1」――新鋭蒸溜所の気概が詰まったブレンデッドモルト
2016年に蒸留を開始した日本最小規模のウイスキー蒸溜所、滋賀県の長濱蒸溜所が18年にリリースした「AMAHAGAN World Malt Edition No.1」。ブランド名は、長濱のアルファベット表記を逆さにしたもの。今年5月に初となる3年熟成のシングルモルト3種もリリースしたが、「AMAHAGAN(アマハガン)」はその過程において重要な役割を負うブレンドに焦点を当てて生み出されたブレンデッドモルトのシリーズだ。
“ワールドモルト”を謳う通り、使用されるのは海外産と長濱蒸溜所産のモルトウイスキー原酒のみ。ベースとなるのは海外産モルトだが、ジューシーでボリューム感のある麦の風味など、極小のアランビック型ポットスチルで蒸留される長濱モルトの個性もしっかりと感じることができる。
レモンなどの柑橘や麦のジュース、シロップに漬けた桃などのフルーツを感じるアロマ。飲めばオレンジチョコレートや麦を連想させる甘さに、若干の苦味が心地よく複雑に絡み合う。個性的なフレーバーはハイボールでも楽しめるが、まずはストレートかロックでじっくり味わってみたい1本だ。
「AMAHAGAN」シリーズとしては他にも、「レッド ワイン ウッド フィニッシュ」をはじめ、今年のワールドウイスキーアワード2020でジャパニーズブレンデッドモルト部門の最高賞を受賞した「ミズナラ ウッド フィニッシュ」、さらには「山桜 ウッド フィニッシュ」と、既に第4弾までがリリース済み。それぞれの樽による個性を飲み比べてみるのも一興だ。
「陸」――自由な発想で楽しみたい、普段使いに最適な一本。
今年の5月にリリースされた、現時点で最も新しいワールドブレンデッドが「キリンウイスキー 陸」だ。米英日3社の合弁会社として、1972年に創業したキリンシーグラム社を前身とするキリンディスティラリー社。同社が所有する富士御殿場蒸溜所は、スコットランドやアメリカ、カナダから導入した蒸留設備や技術を駆使し、モルトウイスキーとグレーンの両方をつくる複合蒸溜所としても知られる。
なかでも世界のウイスキー愛好者たちから高く評価されるのが、異なる蒸留機器を使い分け、ライト、ミディアム、ヘビーの3タイプをつくり分けるグレーンウイスキーだ。そんなグレーンウイスキーが特長的なキリンらしく、新たな商品のブレンドについても、モルトではなくグレーンウイスキーを香味づくりの骨格にしている。
海外から輸入されたグレーン原酒と、グレーンを中心とする富士御殿場蒸溜所の原酒をブレンド。ほのかなバニラやスパイス、キリンウイスキーの身上であるクリーン&エステリーを感じる香りに、飲み口はまさにピュアでメロウ。キリンのもうひとつのこだわりである50度という高いアルコール度数のおかげで、濃厚で厚みのある味わいになっている。
甘さが引き立つハイボールもいいが、溶けてゆく氷とともにその香味を長く楽しめるロックもお薦め。コストパフォーマンスも抜群なので、他にも水割りやお湯割り、さらにはミルクやジュースを使ったカクテルまで、自由な発想で試したくなる。「それぞれの飲み手にウイスキーの新大陸を見つけてほしい」。そんなつくり手の想いが伝わる新時代のウイスキーだ。