東京駅からほど近くの高層ビルが立ち並ぶ一角に、日本の様式美を感じさせる空間が生まれました。その名は、「HIGASHIYA man 丸の内」。店のコンセプトにもなっている蒸したての饅頭を筆頭に、和菓子、日本茶、器類を販売する店です。店名の「man」は、饅頭の「まん」のこと。取扱いアイテムはほぼすべて、独自に開発されたこだわりの品です。店の奥には茶と菓子を提供する茶房(上写真)も併設されています。
商品から店の運営、設えに至るまで一手に担っているのは、緒方慎一郎さん。自身の会社「SIMPLICITY(シンプリシティ)」が手がけた内装は、東京大学総合研究博物館「インターメディアテク」やラグジュアリーホテル「アンダーズ 東京」のチャペル・ギャラリー・バーといった施設、スキンケアブランドのイソップによる「イソップ京都」をはじめとする各地の店舗など多岐にわたります。さまざまな受賞歴のある紙の器「WASARA」も緒方さんの仕事です。そのどれにも日本の美意識が息づいているのが緒方流。シンプリシティの理念は、「現代における日本の文化創造」。その根幹となる活動が、自ら運営する食の店にあります。
東京・表参道に続く2号店となる、 6月3日(月)オープンの HIGASHIYA man 丸の内について、緒方さんが口を開きました。
「日本の文化を世界に広げたい。言葉の壁を超えて人々に伝えるには食がいちばんです。伝統的な食文化を継承しつつ、現代の生活に合わせてアップデートさせています。HIGASHIYA manの出発点は、古くから人々の生活に根差していた和菓子。最も庶民的な饅頭を、最も都会的な表参道で販売してみようと思いました。2号店となる丸の内店では、日本の様式美をより伝える手段としてお茶を飲める茶房を併設しました。日本茶の種類の中で軸にしたのは煎茶です。日本茶の立ち位置をコーヒーや紅茶と同等にまで高めたいのです。『どこでもタダで飲める』というイメージを覆す、クオリティの高い茶葉を用意しました。この店では、日本茶とともに和菓子を愉しむというひとつの “体験” ができます」
HIGASHIYAの和菓子は、砂糖を極力少なくして食材の味わいを引き出したもの。古来の日本で「果子」として食べていた果実や木の実から着想を得ています。そこに西洋由来のバター、チーズ、ブランデーなどを合わせ、味も食感も驚くほどの奥行きに仕上げられています。口に含むと広がるのは、まさしく食を巡る “体験” です。
「たとえばあんこの原料は豆であり、甘く煮るから菓子になるので、大もとは食事と同じ食材です。菓子というのは、ひとつの食文化として考えるべきだと思います。酒のあてにもなりますし、茶房では日本酒・洋酒とのセットメニューも提案しています。男性にもぜひ愉しんでいただきたいですね」
入り口から店内に入ると、正面の壁の器類が目に入ります。緒方さんが手掛けるプロダクトブランド「Sゝゝ[エス]」の製品で、日本の職人とともに開発した現代的な生活道具です。
「僕が展開している様々な店で使っています。生活道具をつくる一番の目的は、伝統の技を持つ職人さんをサポートすること。工芸品が使われる生活シーンを店で紹介すれば、世界中の人に魅力が伝わるでしょう。つくった道具が実際にどう利用されているかを職人さん自身に知っていただくことで、モノづくりの喜びを感じてもらえたら」
HIGASHIYA man 丸の内は、空間の面白さも見逃せません。緒方さんが得意とする緩急の表現があり、客が空間を移動することで異なる “空気” を感じる仕掛けが工夫されています。
「売店では天井の高さを活かし、奥の細い通路を通った先にある茶房は、あえて天井を低くしました。通りに面した外壁は大きなガラス。屋外と空間がつながるため、街路樹の緑が目に入り自然に包まれている気分になれます。店に入ってすぐの広い売店から狭い茶房へと空気が変化する。こうした緩急のつけ方は、常に自分のデザインの根底にある考え方です」
和文化に親しむ人が増えた昨今の風潮に大きな影響を与えてきた緒方さんの活動は、1998年のシンプリシティ設立の同年に東京・目黒区東山に開店した和食レストラン、「HIGASHI-YAMA Tokyo」から始まりました。それから20年以上の時を経たHIGASHIYA man 丸の内にも、心にすっと染み入る、品格のある日本の姿が映し出されています。
HIGASHIYA man 丸の内
東京都千代田区丸の内1-4-5 三菱UFJ信託銀行本店ビル1F
営業:11時〜20時(茶房ラストオーダー 19時)
無休
TEL:03-6259-1148
www.higashiya.com